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結局、私は舞子の誘いを断った。
今年は家族で花火を見ることになったと、嘘をついて。


「どうしよう。司はどれが食べたいかな」


花火大会当日になり、私は1人で買い出しへ来ていた。
会場となる河川敷にはすでに沢山の出店が並んでいて、大きな声で呼び込みをしている。
あちこちから甘い香りやソースの香りが漂ってきて、食欲を刺激してくる。

できればこのリアルな感覚を司にも味わってほしいな。
そんなことを考えながら、私は3人分の焼きそばを購入した。

ソースの甘い香りには勝てなかったのだ。
人形焼やたこ焼きも購入して、最後にイチゴ飴を買おうと足を進めたそのときだった。


「美保?」


前方からやってきた人物に私は足を止める。
咄嗟に無視しようか、どこかに隠れようかと考えるけれど、バッチリ目撃されてしまったのでそれもかなわなかった。


「剛……」


私服姿の剛を見たのは初めてだった。
ショートパンツに半袖で、筋肉質な手足がむき出しになっている。
しっかりと日焼けしているところを見ると、夏休みを満喫しているのだろう。


「1人か?」

「う、うん」

「なんで?」

「なんでって……」

「さっき向こうで舞子たちを見かけたけど、お前どうしたんだよ」