高校一年の二月。節分の翌日。

相変わらず俺は委員長していて、霞湖ちゃんはもうすっかりクラスに馴染んでいて、たまに一緒に李湖ちゃんのお迎えに行って、親戚から送られてきた野菜や果物を霞湖ちゃんの家に持って行けば楓湖さんとも仲良くさせてもらって、ケージさんとは毎日のようにメッセージのやり取りをしていた。

だがまあ、國陽が言った『霞湖ちゃんの披露目』なんてことには、なっていない。

俺が、まだ踏み切れていないから。

桐湖さんのことに進展があって、あと百歩譲って本屋涯のおじいさんが言った言葉の障壁がなくなったとして（國陽の手回しのおかげで）、霞湖ちゃんが司家に慣れるだろうか……という心配がある。

神祇のとりまとめ役にして頂点。

その、先代当主の息子の嫁という立場。

万が一にも、俺が当主に、という心配はない。

そのあたりは國陽が盤石のものとしていて、俺もそうなりたいなんて思ったことはないから。

俺が恋人を作るとなれば、花嫁に直結する考えというか、風習があるから、一族の人たちにはイコール俺の結婚相手と捉えるだろう。

高校生で婚約者になってしまう。いや重すぎ。

そもそも、霞湖ちゃんに司がどうとうか神祇がどうとか、話していない。

学校は学校で楽しんでいるようだけど、プライベートが大変過ぎる霞湖ちゃんにそんなこと言っていいとは思えないんだ。

霞湖ちゃんも霞湖ちゃんで、俺を落とすとかそういった発言をしていたけど、目に見えて何か仕掛けてくるわけではない。

色仕掛けられてもいない。普通の仲のいい友達って感じで過ごしている。

――過ごしていたんだ。

ある金曜日の早朝。ケージさんから、メッセージアプリで着信があった。

いつもなら文面でのやり取りだけど、初めて電話がかかってきた。

学校に行く支度をしていた俺は、首を傾げながら応答した。

「もしもし、司です――」

『優大くん！　今すぐ、今すぐ小埜病院に来てほしいんだ！』

「え、な、何かあったんですかっ？」

ケージさんの勢いに押されて、俺も慌てて喋った。すると、

『今病院から連絡があって、桐湖の意識が戻ったらしいんだ！　楓湖ちゃんに連絡して、霞湖と李湖を車で連れてくるって言っていたから、優大くんも拾われてくれるか！？』