突然俺がテーブルに突っ伏してうなり声をあげると、隣の霞湖ちゃんがびくっとしたのがわかった。
「ゆ、優大くん……?」
「くそっ、やっぱりお前のせいか斎月!」
「なにが。濡れ衣だったら容赦ないぞ」
俺が恋愛する気にならなかった理由、たぶんこれだ……。
斎月は生まれたとき、すぐに俺の許嫁とされていた。
いや、俺が斎月の許嫁に最適な人材だったんだ。
國陽は当主だけど、簡単に言えば何度も転生を繰り返している『始祖当主の生まれ変わり』で、その存在は『妻を持たない当主』と言われていた。
國陽が生れながらに当主になることを定めづけられていたのもこのためだ。
そして例にならって、國陽は妻を持たないだろうと考えられ、男系の大和家で久方ぶりに生まれた女児であった斎月の許嫁に、俺が選ばれた。
大和家も開闢の瞬間(とき)から続く一族で、大和家、司家、双方ともに縁組を望んでいた。
だが、斎月が生まれ故郷から日本に来てすぐに國陽と出逢い、恋に落ち、國陽の希望で斎月と俺の許嫁は解消、のち、國陽の許嫁となった。
その後は問題なく来ていて、斎月が当主の許嫁であることに異を唱える者はもういない。
……そっか……これか……。
たぶん俺は、俺に大事な人が出来ても、いなくなっちゃうかもしれないと怖かったんだ。
俺と斎月の間に面識はなく、むしろ許嫁がいることすらろくに知らされないでいるうちに國陽と斎月が出逢っているので、俺が斎月を好きだったとか、許嫁の解消を悔しかったとか、そういった感情はかけらもない。
でも、いつか手放すことになるかもしれない。
それなら、自分から誰かを望むのではなく、家の決めた結婚に従うのがラクだ。
……そんな風に考えるようになっていたのかもしれない。
なんたる負け犬思考。
顎をテーブルにつけて顔をあげる。
「斎月、ちょっと俺のこと殴ってくんない?」
「顔の形変わるけど、いい?」
いやだ。
腕をぐるんぐるん振るな。
國陽を見る。