「出るよ。今の政策途中だし、議会に司姓がいるに越したことないだろう? しかも父さんだし」
ケトルのスイッチを押す。
まだ暑い時分だけど、部屋も冷えてきたから温かいものもあるといいかな、と。
「……一門の者なら他のを送り込める」
「……お前はまだ父さんが議員でいることに反対なのか?」
やれやれ、とため息をつきつつシンクに背中を向けて國陽を見る。
國陽は、無表情よりはいくらか厳しい顔になっていた。
「反対だ。正大さんに問題があるわけではないが、まとも過ぎる。まともな感性であそこにいるのは、いつかつぶれるぞ」
「容赦ねーな……」
國陽は、司家当主。社会人と同じ場面も多く扱っている。
話を変えるか。
「そういえばお前の許嫁、そろそろ落ち着いたか?」
「さくが落ち着くわけないだろう」
「いやお前の許嫁だろうよ。俺にキレんな」
國陽が若干きつい目で見てきたのでツッコむ。
國陽の彼女の名前は大和斎月なんだけど、國陽は『さく』と呼んでいる。
その理由を國陽から聞いていても、俺がそう呼ぶことは決してない。
「そんでもやっぱり、お前らが十八になったら即結婚なのか?」
祖父母両親健在ながら、既に司家当主の國陽。
宗家の主人ともなれば、当然跡継ぎを望まれる。
「そうしたいところだが……」
「なんかあるのか? 斎月の家族には認められてんだろ?」
俺が國陽の許嫁を斎月、と呼び捨てにしているのは、初めて会った時に『斎月様』って呼んだら拒否されて、『姫様』『姫』『斎月お嬢様』などなど提案したんだけど、呼び捨てにしろと最終的には本人に脅されたからだ。
こえーんだよ、國陽の許嫁。
國陽は感情の見えにくい面差しに、陰をやどす。
「……仕事を辞めさせなくちゃいけなくなる……」
「ああ……」
確かに、司宗家に嫁入りするとなれば、斎月の今の『仕事』を続けるのは難しいだろう。
っつーかほんとなんであんな仕事してんだよ姫さんは。