「えっ、先代とかって、前の当主って意味ですよね? 優大くんのお父様なんですか?」
あ、あー……。
「……うん。俺の父親が國陽の前の当主で、じいさまはその前の当主……」
俺の声が小さくなってしまうと、國陽が補足してくれた。
「俺の祖父は優大の祖父の弟で、司の本家直系は、優大の血筋なんです」
「でも、優大くんのお父様、議員だって聞いたような……」
「國陽に当主を譲ったあと、父さんは議員になったんだ」
それが六年前のこと。
國陽が正式に司家当主になったのは十三歳のときだけど、十歳の頃には事実上國陽に譲られていた。
俺が國陽の影の準備を始めたのもその頃だ。
「……優大くんが跡継ぎ……では、なかったんですか?」
………。
確かに俺は、こういう言い方は好きではないけど、『当主の息子』という立場だった。
けれど。
「まあ色々あって、國陽のが適任だったんだよ」
俺がお茶を濁すと、斎月が嬉々と言った。
「霞湖嬢。その色々は、司に嫁入りしたら知れますよ」
「お前ほんと口縫い付けるぞクソ女」
すげえいい笑顔で言うもんだから、霞湖ちゃんがドキッとしてしまったのが見えた。
斎月はよく女性にモテる。男にもモテるけど。そして女性恐怖症だけど。
直後、はっとした顔になる霞湖ちゃん。
「? 霞湖ちゃん?」
心配になって顔をのぞきこめば、俺を見たあとす……と視線を逸らした。
「あ、李湖ちゃんのお迎え――」
時計を見ながら、遅くなっちゃうから行こうか、と言おうとしたら、「そ、そうではなくてですね……」と言われた。
「……あの、その……」
「言いたいことあったら言っていいよ?」
李湖ちゃんのことではないようだけど、この視線の逸らし方に既視感があると思った。
霞湖ちゃんのおかげで、斎月が俺の彼女だという誤解が解けたあとの感じだ。
霞湖ちゃんが、一大決心とばかりに真剣な目で見てくる。
「……優大くんは、大和さんをいじめてるんですか……?」
……大和さん、いじめて?
「………はっ!? なんで」