「できねーんだって」

じろっと律を睨むと、からかうように、はっと笑われた。

「意味わかんね。お前、好きな人のためなら家捨てるくらいすると思ってたわ」

「勝手な印象で決めんな。俺が家を捨てることはねーよ」

「そのために好きな人を捨てても?」

「好きにならなければいい。――って思ってたけど、好きになったのはどうしよもないから、そこから成長させずに俺の気持ちだけ捨てることにした」

……情けない答えだけど、それが俺の出した今の答えだった。

「お前は……呆れるわ、バカ」

「知ってる」

「知ってんのか。まあ、なんだ」

「おう。今ならののしり放題」

「さすがにそこまでしねーけど……お前の人生だってことも忘れてねえか?」

「………?」

「いやそこで首を傾げるな。お前の人生はお前のもの、っていうのが、よくわかんねえけどお前の人生に通じないとしても、それを選んだのはお前だ」

「……うん?」

「つまり――家に縛られて生きるって決めたのはお前で、それに反抗しないと決めたのもお前。一度くらい反抗期起こしてみたらどうだ? 付き合う人くらい自分で決める――とか」
 律の言葉を聞いて、数秒の間放心してしまった。

「……………その発想なかった……」

ぽかんとした声でそう言うと、律は額に手をやってため息をついた。

「どんだけ堅物だよお前。変なとこで手がかかるな」

「えー」

「えー、じゃない。ほら、誰かが迎えに来てるぞ?」

「え?」

律が顎でさした方を振り返ると、生徒会室のドアの上部についているすりガラスの窓の向こうに、人影が見えた。

………迎え?