自分のお父さんを睥睨する霞湖ちゃん。

「お母さんに会いたいんなら、ちゃんと会いにくればいいじゃない。私はまた、五人家族で暮らせる日を思ってるから」

それだけ言って、霞湖ちゃんは踵を返した。

なんとバッサリな言葉……。

「ちゃんと寝てご飯食べて、体調にいいときに会いに来て」

――振り向かずに言ったその言葉で、霞湖ちゃんが拒否した理由がわかった。

疲れているお父さんを心配して、無理せず休んでほしいんだ。

霞湖ちゃんのお父さんにお別れの挨拶せねば、と俺はまだ歩き出さずにいて、霞湖ちゃんのお父さんを振り返った。

その顔は疲れていながらも、苦笑いを浮かべている。

「しっかりした娘だよ、ほんと」

「ええ、本当に。霞湖ちゃんの言う通りだと思うので、休めるときは休んでくださいね」

「うん、そうするよ。そうだ司くん、連絡先教えてもらえる?」

「? 俺の、ですか?」

「うん。こういう縁だし」

「はい、構いませんけど」

携帯電話を取り出して、メッセージアプリに霞湖ちゃんのお父さんを登録した。

そこに登録されている名前を見る。

「お名前、水束……刑事(けいじ)さん、ですか? それともご職業が?」

「本名なんだ。親のネーミングセンス。あだ名はずっと『デカ』だった」

「……そう、なんですか……」

「楽しい友達ばかりだったから気にしてはいないけどね。娘たちは、奥さんの名前が『湖』って書いて『こ』って読む名前だったから、おそろいにしたんだ」

「可愛い名前ですよね」

「だろう?」

「優大くん、何話し込んでるんですか」

思わず霞湖ちゃんのお父さんと話し込んでしまっていると、再び霞湖ちゃんが不機嫌な様子で腰に手をあてていた。

「霞湖、今司くんが、霞湖たちの名前ほめてくれたんだよ。可愛い名前だって。お父さんに感謝しなさい」

「うっざ。優大くん、こんなおっさん放っておいていいですよ。行きましょう」

「あ、うん。それでは」

「今日はありがとう、また」

いつの間にか。

霞湖ちゃんに腕を掴まれている。