國陽は普段、着物で過ごしている。それこそ学校に行く以外は。
前に着流し姿で俺の家の前で待っていて、良すぎる見た目も相まってかなり不審者扱いされていた。
そのとき、うちに来るときはせめて制服にしてくれと強く言って置いたことがある。
「優大に何かあったみたいだから」
と、感情の見えない表情で言う。
表情に感情は見えなくても、國陽はその雰囲気で伝えてくるというか……敵わないんだよなあ、こいつには。
「まあ、ちょっとな。中入ってから話すよ」
國陽のことをさっきは幼馴染と言ったけど、はとこというごく近い身内になる。
本名は司國陽。そして、『主咲』と書いて『つかさ』と読む名前を許された、司一族で唯一の人物でもある。
うちの一軒家はよくある洋風造りで、和室は客間にしている一室だけだ。
うちの勝手知ったるな國陽は、俺に続いてリビングに入って来た。
「転校生が来たんだ」
カバンをソファに置いて、ネクタイをゆるめる。そしてすぐにエアコンをつけた。
「問題あるのか?」
國陽も俺と同じような半袖の制服のシャツにネクタイだけど、暑さなんて感じていないように見える。
「いや、問題って言うか……」
なんて言うんだろうか……言葉に迷って、少し考えをまとめるためにお茶を淹れにキッチンに向かった。
それを見て國陽は、ダイニングの壁に背を預けた。
「……いつも、すまないな」
急に、國陽がそんなことを言った。
主語がなくても、意味はわかる。たぶん、一族内で俺だけは。
「何言ってる。俺だって納得して請けたことだ。むしろ、誇りに思ってるよ」
――俺は、國陽の影だ。
司一族っていうのは少し特殊な家柄で、『神祇(じんぎ)』と呼ばれる家たちの、総元締めともいうべき家だ。
國陽は十五歳ながらその当主。
司家の中枢にある家の子どもで、國陽と同年代の男子は俺しかいない。
そのために俺が國陽の――所謂影武者に選ばれた。
國陽は感情表現に乏しいけど、根が優しい奴。
ぶっちゃけ、俺が本音で話せる唯一だ。
電気ケトルに水を入れる。
「正大(しょうだい)さん、次も出るのか?」
正大というのは、俺の父さんの名前。