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「司くん、今日は来てくれてありがとう」

泣き腫らした霞湖ちゃんがお手洗いで顔を洗って来るというので、俺と霞湖ちゃんのお父さんはデイルームの隅にいた。

面会時間でそれなりに賑やかな空間に、俺たちの存在は目立たない。

「いえ……勝手に口をはさんですみませんでした」

霞湖ちゃんのお父さんに向かって頭を下げる。

「そんなことないよ。司くんは霞湖のことを肯定してくれる人だってわかって、安心したよ」

向かい合って座れる場所がなく、隣り合う椅子に座っているので、顔をあげて左隣の霞湖ちゃんのお父さんを見る。

「……肯定?」

どういう意味だろうとオウム返しすると、霞湖ちゃんのお父さんは困ったような笑みを、少しだけ浮かべた。

「霞湖、あの通り口が悪いんだ。思ったことを素直に口にしてしまう性格というか……それで、中学時代もちょっとあってね。今も学校ではあんな風だった?」

あの通り、とは、彼女たちを断罪したときの口調のことか。

「今は……敬語で、丁寧に喋っています」

「そうか……じゃあ、驚かせちゃったかな」

苦笑気味に言う霞湖ちゃんのお父さん。

出逢ったときよりは、その表情に感情が見える。

「……ちょっとだけ驚きました。けど、なんとなく、わかっていたので」

こういう子かな? という、俺が持っていた霞湖ちゃんの輪郭が、さっき補完されたような感覚だ。

霞湖ちゃんのお父さんは、ふっと息を吐く。

「そう、よかった。ところで、いつから付き合ってるの?」

「えっ? どこにですか? 一緒にここに来るのは初めてですけど……」

「いや、霞湖と付き合ってるんだよね?」

「え?」

「え?」

「………」

「………」

また沈黙になってしまった。

付き合うって……つまり、その……? ばれてる?

「え、と、……俺が、霞湖ちゃんのこと好きだって、どうしてわかったんですか……?」