……なので正直、霞湖ちゃんが俺を必要としてくれるのは、今だけだと思っている。

この問題が解決しないまでも、霞湖ちゃんが『本来』を取り戻せば……俺が霞湖ちゃんの傍にいる理由も、きっとなくなる。

霞湖ちゃんが俺の傍にいてくれる理由も……。

今だけの花だ。咲かせて、散ろう。

「俺に出来ることがあったら、指示をください。出来るだけ、お二人の邪魔はしないように動きますが……」

「いえ。司くんは、霞湖の傍にいてくれるだけで十分すぎるほどです。なので……霞湖が暴れないように、お願いできますか?」

「? はい」

暴れる? って、激情に任せて、みたいなことか? この華奢な子を止めることくらいなら。

「お、お父さ――」

「―――失礼します」

堅い声が、ドアの向こうから聞こえた。

声はひとりだけだけど、複数の人がいるはずだ。

霞湖ちゃんと霞湖ちゃんのお父さんの顔が強張る。

しばしの沈黙がドアのこちら側と向こう側であって、やっとのことで霞湖ちゃんのお父さんが「……どうぞ」と声を押し出した。

可哀そうなほど震えている声だった。

「……失礼します」

そう言ってドアを開けたのは、それぞれ私服姿の女性たち。

見た目は高校生くらいだけど、化粧をしたり髪をいじったり、華美な服装をしている人はひとりもいない。

何人か、数えるのはやめた。それはしなくていいと思った。

ドアの前に並ぶ女性たち。

そこから病室の中に、俺と霞湖ちゃん、寝台に眠る桐湖さんをはさんで、霞湖ちゃんのお父さんがいる。

「――申し訳ありませんでした!」

一人が言うと、続けざまに同じ言葉を繰り返して腰を折って頭を下げた。

……この人たちが、桃華さんを自殺に追いやった人たち。

桐湖さんを、自殺未遂に追いやった人たち。

……桐湖さんは、自分が行かなかった修学旅行のあとに命を投げた桃華さんの後を追った。

けれど、桃華さんは亡くなり、桐湖さんは一命をとりとめた。

それが現実だけれど、どこにも落ち着けない話だ。

ひとりの命を奪い、その親友をも追い詰めた。

彼女たちがしたことは、決して遊びでもなければ、ひとつも正当化の余地のないことだ。

いじめられる方にも問題はある、なんて言える人は、本当の現実を知らない愚か者だ。

「謝って、どうするんですか?」