「……桐湖さんのこと、お聞きしました」

「……はい」

「俺に、特別何ができるというわけではありません。はとこのように全能の権力者でもないし、その恋人のように万能の学者でもありません。でも、」

でも。

「霞湖ちゃんのクラスメイトは俺なので、ここにいさせてもらえませんか……?」

國陽や斎月のようになることは出来ない。

國陽や斎月のように振る舞うこともできない。

けれど、『霞湖ちゃん』と呼んで、近くにいるのは俺だ。

ならば、國陽にしか出来ないことがあるように、斎月にしか出来ないことがあるように、俺にしか出来ないこともあるかもしれない。

國陽の身代わりとして、では、なく。

霞湖ちゃんのお父さんは俺の言葉に数回瞬いた。

いや、いきなり見知らぬ娘の同級生に、はとことか言われても困るよな……。

「そうですね。来てくれたのは、司くんです。ご親戚にすごい人がいるのかもしれないけれど、その方はここに来てくれてはいません。なので……これから大変になりますが、霞湖のことをお願いします」

「は、はいっ」

霞湖ちゃんのお父さんに頭を下げられて、俺も勢いよく頭を下げた。

上体を起こすと、霞湖ちゃんのお父さんは神妙な顔つきで訊いてきた。

「なにがあるか……聞いている?」

これからここで何が起こるのか。

「はい。霞湖ちゃんから、聞いています」

口元に力を入れてうなずく。

「そう……決して気持ちのいいものではないし、むしろ……」

「大丈夫、です。わかっていて、来たので」

そう、霞湖ちゃんは、何が起こるか俺にすべて話してくれた。

そして言ったのだ。『助けてくれませんか?』と。

俺は全部知った上でうなずいた。

だから、

「心配されるのは俺ではなく、霞湖ちゃんと、霞湖ちゃんのお父さんなはずです」

俺の心配はいらない。

己の強さを鍛えてきたつもりはある。

弱さに寄り添うことも考えて動いてきた。

けれど、強さの傍にいることには忌避感をおぼえていた。

理由は、完璧の具現化がすぐ近くに二人もいるからだろうけど。

霞湖ちゃんは強い子だ。

今は状況が状況だけに、弱さが全面に出てしまっているけど、その心は斎月レベルに強い子だと感じている。