両手をこぶしにして、ふーっと長く息を吐いている。

「……霞湖ちゃん、」

「だいじょうぶ、です」

答えた霞湖ちゃんの声は、かすれていた。

どうするどうするどうすればいい。女の子が傷ついていて、今まさにその真っ只中に乗り込もうというとき、俺はどうすればいい――。

……少し卑怯な手かと思ったけど、あとで謝り倒そうと決めて、霞湖ちゃんのこぶしに、自分の手を重ねた。

はっと俺を見上げてくる霞湖ちゃんの目は、ただ驚いているようだ。

「大丈夫、だよ」

まっすぐに見つめ返すことが出来なくて、少しだけ視線をはずした。

霞湖ちゃんの空いている手が、胸の前でこぶしになる。

「はい」

初めて入った病室。

ひとつしかないベッドに横たえられた人影と、その向こう側に、パイプ椅子に座ってうつむく男性がいた。

ベッドに横になっているが霞湖ちゃんのお姉さんの、桐湖さん。ぴくりとも動かない。

霞湖ちゃんがドアを開けると、男性が弾かれたように顔をあげる。

やつれた頬、目に力はなく、クマが濃く見られる。

両ひざに肘をつき顔の前に組んでいた手は骨と皮と表現できるくらいで、どれほどの苦しみにさなかにいるのか、見ただけでわかる。

……好きだのなんだの悩んでいた自分をぶん殴って崖から転がしたい。

「お父さん」

「霞湖……来るの、大丈夫だったか?」

霞湖ちゃんのお父さんの声はかすれていた。

霞湖ちゃんに向かってほほ笑もうとしたようだけど、表情は哀しそうで苦しそうに見える。

「……そちらは?」

俺に目を向けた霞湖ちゃんのお父さんに問われて、俺は背筋を伸ばした。

「クラスの、委員長さん。学校で一番お世話になってる人で、司優大くん」

「そうか……娘が、いつもお世話になっています」

「い、いえっ、こちらこそ。本屋涯のおじいさんとは知り合いでしたので……」

「お義父さんですか。それは……」

「………」

「………」

会話が続かない。いや、続いていい場面でもない気がする。

なんだか霞湖ちゃんのお父さんも困っているように見える。

そりゃそうだよな。こんな場面に初対面の、しかも男子がいるとか。