「だから、」

俺が教室に入った途端わんさか寄ってきたクラスメイトに辟易して、誤解を解こうとしていた気持ちがしぼんでしまう。

どうにかして俺の話を聞いてもらわないと――

「あの、本当に優大くんの彼女さんでいいんですか?」

空気を切るように響いたのは、今まで教室では滅多に聞いたことのない声だった。

「え? 水束ちゃん?」

一人が、驚いた声をあげる。

霞湖ちゃんが、あわあわしながらも続けてくれた。

「あ、いや、今朝から、優大くんの口からはその言葉を聞いていないな、て……」

思って、ですね……なんかすみません……。と続ける。

か、霞湖ちゃん……みんなが自由過ぎるから、霞湖ちゃんの一言に感動してしまった。

――宣言するなら、静かになっている今だ!

「俺の彼女ではありません! 俺のはとこの、彼女ですっ」

更にしーんとなる辺り一帯。や、やっと言えた……。なんか敬語になったけど、言えた……!

三秒ほど置いて、どっと空気が変わった。

「えー、優大の彼女じゃねーの?」

「うわーん、首の皮繋がったー」

「それならもっと早く言えよ」

言わせる隙与えなかったの誰だよ、と、いつも通りの悪態をつくと、わりーわりー、と応答があった。

よか、った……。

ほうっと本気で安心のため息をつくと、その拍子にばちっと霞湖ちゃんと視線があった。

ありがとう、の意味でほほ笑みかけると、目線を逸らされた。え。

た、助けてくれたの、霞湖ちゃんだよね……? まさか、斎月が俺の彼女であった方がよかった……?