「へっ?」

「みんなそう呼ぶから、苗字で呼ばれ慣れてないんだよね」

「あ、はい……」

「霞湖ちゃんって呼んでいい?」

「え……ご自由にどうぞ……?」

いいんだ。これは拒否されるやつかと思っていたから驚いた。

「クラスのみんながそう呼ぶのは、いやだったりする?」

「い、いえ……特に気にしない、と思います……」

みんなもいいんだ。ますます琴線がわからなくなってきた。

「家まで送ろうか? まだこの街に慣れてなかったら」

「そ……それは大丈夫、です……。ありがとうございます」

「そっか。じゃあさっき会ったとこまで一緒に行こうか」

「……はい……」

李湖ちゃんは、目に映る景色のすべてが珍しいらしく、俺と霞湖ちゃんの会話は気にせず楽しそうに歩いている。

霞湖ちゃんは霞湖ちゃんで、この世のすべてに謝っているみたいに周囲を気にしながら歩いているように見える。

ヴヴ、とポケットに突っ込んでいった携帯電話が何かの着信を告げた。

さすがにこの場で確認できないから、霞湖ちゃんたちと別れてから確認しよう。

何を話したらいいのかなあ、何も話さないでいた方がいいのかなあ、と考えながら歩く。

今無闇に話題を振って、有害認定されたら終わりな気もする。

たぶんだけど今のところ、俺は関わってはいけないやつだ、とまでは思われていないだろうから。

慎重にいこう。霞湖ちゃんがどうして学校でのような態度をとるか、急に問いただすようなことはしてはだめだ。

――クラスが再びいびつにならないために。

――霞湖ちゃんがうちの学校で楽しく過ごせるように。

今の俺の課題は、この二つだろうか。