そう言って、斎月の首根っこ引っつかんで駆け出した。

周囲から残念そうな声が聞えたが、このままでは誤解に誤解が重なりそうだったので逃走した。

学校近辺の住宅街を抜けて、道路の片側は森という場所までやってきた。

「はあ……まじでなんでお前がいるんだよ」

俺の息が少しあがっているが、同じだけ走ったはずの斎月は疲れた様子がかけらもない。

「國陽くんから話を聞いて」

「手出すなって言ったはずだけど?」

俺が腕を組んで言えば、俺よりは背の低い斎月はにっと嫌な笑い方をする。

こいつ、美形が台無しな表情とか行動をよくするんだよな……。

「私が國陽くんの言うこと聞くと思った?」

「……ねーよ」

國陽……苦労してるだろうなあ……。

斎月が誰かの言うことを聞くのは兄だけだというのは結構な評判だ。

「まあそんな話はいいとして」

「いやなんで来たのか教えろよ。お前、ここには出入りするなって言ってあるよな?」

「堅いこと言うなよ。あんまり邪険にすると私と許嫁だったこと学校の人たちにばらすぞ?」

「やめろおおおおおおおお!! それだけは! 絶対に! 誰かに言ったら俺死んじゃうからああああ!」

頭を抱えて絶叫した。それが嫌でこっちくんなつってんだバカ! 不覚にも俺は、こいつの許嫁だった時期がある。

と言っても、俺も知らなかったし斎月も知らなかった話だ。

「優大、愉快だなあ」

ケラケラ笑いやがるこの野郎。

「からかう方は楽しくていいよな。ふざけてんなよクソ女」

俺が悪態をつくと、しかし斎月は取り澄ました顔になる。

「本題に戻ろう。水束家と三宮家は、刑事告訴する流れのようだ」

戻し方が急すぎる。でも、俺も悪態ばかりついているわけにもいかないので斎月の言葉に返す。

「……桐湖さんと桃華さんのことだよな?」