帰ろうと思って昇降口を出ると、なんだか校門の辺りがざわついていた。
なんだろう、と歩きながらうかがうと、
「ああ、優大」
「げっ。なんで……」
生徒に遠巻きに見られている、斎月がいた。
そして衝撃で立ち止まってしまった俺の目の前までやってくる。
「ちょっと優大に会いに来た」
「………」
いい笑顔で言うもんだから、近くにいた女子や男子から悲鳴があがる。うわあ。
……斎月はかなり難な性格をしていながら、見た目だけは極上だ。
艶やかな黒髪は肩口ほどで、今日は結ったりしていない。小さな顔にバランスよくちりばめられたパーツ。目は若干鋭さが見えるが、きつい印象を与えるものではない。華奢すぎもたくましすぎもしない体躯で、身長は百七十近くあったと思う。
「こっち来んなつったろバカ!」
斎月がもう俺の目の前にいるので、知り合いじゃないデス、と言い訳するのは難しそうだ。小声で怒鳴る。
「私にバカと言うのは優大と兄さんくらいだな」
「……そこ着眼点じゃねえんだよ……」
まあ、大和家のお姫様である斎月に物申せる人はそういない。
あと、斎月が自分で得た地位的にも。
「ちょっと話ししないか?」
これまた笑顔で言われた。
また悲鳴があがるけど、こいつはお構いなしだ。うわあ。
「……少しならな」
「優大くん? なんかすごい騒ぎになってますけど……」
校門に突っ立っていた斎月には話しかけられないでいた生徒たちだったけど、今やってきたらしい霞湖ちゃんが俺に声をかけてきた。
そして斎月を見て、驚いたような顔をした。
……なんだかすごくマズい気がする。
「な、なんでもないよ霞湖ちゃん。じゃあ、また明日」