「はい?」
「明日、学校、来られる……?」
それが不安だった。クラスで――うちの学校であったことを知って、霞湖ちゃんは大丈夫なのかと……。
俺の質問に霞湖ちゃんは、大きく瞬いた。そして、少し視線を下げる。
「私の……桐湖お姉ちゃんには、一人、親友がいました」
「うん……」
「桃華(とうか)ちゃんって名前で、名前が似てるからって理由で仲良くなったんです。それが……何が原因がわからないけど、桃華ちゃんがいじめの標的になって、桐湖お姉ちゃんしか友達もいなくなって、二人でずっと戦ってて……」
「うん……」
「高校二年生、の、修学旅行の日、桐湖お姉ちゃんが、熱、を出したんです。桃華ちゃんがいるからいくって言い張って、いたんですけ、ど、いじめのことを知らなかった私が、桐湖お姉ちゃんが行くのを、止めたん、です」
「うん……」
「修学旅行から帰ってきて……桃華ちゃんは、命を、投げまし、た……。その、後を追って……桐湖お姉ちゃんも……」
「……うん」
「桐湖ちゃんは、優大くんと逢った場所で、眠っています。いつ目覚めるか、わからないと言われています。でも、もし目覚めて、この世界に桃華ちゃんがいないことを知った桐湖お姉ちゃんが、どうなってしまうか……怖くて、目覚めなくていい、なんて、すごく最悪なことも、私、考えちゃうんです……」
「うん……もう、いいよ」
涙をぼろぼろ零しながらも、前を向いて話し切った霞湖ちゃん。
その勇気と強さを、俺が台無しにするわけにはいかない。
霞湖ちゃんは今、一人で立ちあがろうとしているさなかだ。
ここで安易に抱きしめたりして、安い言葉をかけるわけにはいかない。
前提、俺と霞湖ちゃんは一生をともに生きていこうなんて言葉を交わした、寄りかかり合っていい関係じゃないし、恋人でもない。
クラスメイトと、そのクラスの委員長。それだけだ。
それでも――ここにいるのは、俺の誇りでありコンプレックスでもある國陽や斎月じゃなくて、俺だ。
ぽん、と霞湖ちゃんの頭に手を載せた。
「よく、がんばったね。カッコいいよ、霞湖ちゃん」