「その……悪意あって言ったわけじゃない誰かの言葉にいちいち傷ついて、周りにも迷惑かけて……」

しゅん、と小さくなる霞湖ちゃん。

……今のは、昼間の俺のことだろう。

俺も何気なく言ったことだったから、未だにどれが霞湖ちゃんの琴線に触れたのかわかっていない。

あれほど動揺してしまうことを、直接訊くわけにもいかないし。

「んー、気にしなくていいと思うよ? うちのクラス気のいいやつばっかだから、少なくとも俺たちは気にしてないし」

気にしていないし、むしろ霞湖ちゃんを心配している。

「なにか……あったんですか?」

「へ?」

「クラスの……みなさんが、私にそこまでよくしてくれること……普通じゃないというか、あ、失礼な意味じゃなくて、珍しいくらいに一致団結しているというか……」

……気づかれていたか。

みんな、俺に任せると言いつつ霞湖ちゃんのことを心配していたからなあ。

「まあ、理由はあるよ、うちのクラスがそうだっていう理由。でも、霞湖ちゃんには教えらんないかな」

「………」

「あっ、霞湖ちゃんをクラスに受け入れないとかそういうことじゃなくて、たぶん霞湖ちゃんの……傷をえぐっちゃう理由だと思うから、なんだ……」

「―――」

一瞬、霞湖ちゃんの表情が凍り付いた。

……どういうわけか、察したんだろう。

「……教えてください」

「え? ……霞湖ちゃん?」

「教えてください。知りたいです、私」

「でも……」

予想外の言葉に俺が言い淀んでいると、霞湖ちゃんは一度唇を引き結んだ。

それから、意を決したように俺を見てきた。

「このままじゃ、だめだと思うから」

「………」

このまま、逃げ続けるだけでは。そう、霞湖ちゃんが付け足した。

そんなことを言われてしまったら、俺の決意も負けてしまう。

わかった、と返した。

「李湖ちゃんには聞かせたくないから、霞湖ちゃんの家についたらでいい?」

「はい」

……いつもは返事が返ってくるまでに間があるのに、霞湖ちゃんの声は凛然としていて、迷いが見えなかった。