「今、カバン持ってきますね。李湖ちゃん、お姉さんとここで待っててくれる?」

「はいっ」

李湖ちゃんが元気よく右手をあげて返事をした。

先生の腕からおりた李湖ちゃんは、膝を折った霞湖ちゃんに抱き着く。

「遅くなってごめんね、李湖……」

李湖ちゃんを抱きしめた霞湖ちゃんの声は、震えていた。

……李湖ちゃんを護るために生きていると言い切った霞湖ちゃんにとって、このことは大きな傷になってしまうかもしれない。

どうにか、俺に出来ることはないだろうか……。

ぱっと、霞湖ちゃんの腕の中の李湖ちゃんが、突っ立っている俺を見てぱあっと笑った。

「ゆーだいおにいちゃん、もどってきてくれました! やそくくまもってくれました!」

「………」

確かに俺は李湖ちゃんに「必ず戻るから待ってて」と言って幼稚園を出た。

憶えて、待っていてくれたんだ……。

……國陽や斎月なら、霞湖ちゃんの問題を根本から解決してしまう手腕と人脈を持っているだろう。

でも、霞湖ちゃんと出逢ったのは俺で、今、霞湖ちゃんの隣にいるのも俺だ。

――ならば、霞湖ちゃんに言葉をかけられるのも、俺でいいはずだ。

「霞湖ちゃん」

俺も、霞湖ちゃんの隣にしゃがみこんだ。

「………はい」

霞湖ちゃんは目元を手でぬぐいながら答える。

「連絡先交換しない?」

「……ナンパ?」

「違います。俺、李湖ちゃんと知り合いだし、先生とも顔見知りになったから、もしまた李湖ちゃん関係で何かあったら――例えば今日霞湖ちゃんの連絡先知ってたら、園に来た時直接連絡とることできたわけだし。という理由です」

チャラい奴だと思われるのは嫌だから、訂正した。

「霞湖ちゃんが嫌だったら無理にとは言わないけど……」

「いえ。ありがたいお話です。その……迷惑をおかけしてしまうのは申し訳ないですが……」

「迷惑じゃないから、教えてくれる?」

「……ちょっと待ってください」

そう言って霞湖ちゃんは、李湖ちゃんから手を離して制服のポケットから携帯電話を取り出した。

手帳型のカバーがついていて、その内側のポケットから、何か紙を取り出した。

それに書いてくれるのかな? なんて思ってたら、俺の携帯電話がメッセージの着信を告げた。