「十分すごいですよ。……あの、今日は本当にごめんなさい」

「え? いや、俺の方こそごめん。昼間もさっきも」

謝るのは俺での方では? と思って謝ると、霞湖ちゃんが首を傾げた。

「さっきは優大くん、悪いどころかヒーローですよ?」

「いやいや、家宅侵入しちゃってるでしょ、俺」

鍵が開いていて、無事を確認したかったからといって簡単に許される行為ではない。

「………? ……はっ」

「気づくの遅いでしょ。咎めはあとで受けるから、今は李湖ちゃんの方を」

「咎めることなんてないですっ。むしろお礼をしなければっ」

「無理しないで」

「無理なんて――」

「おねーちゃーん!」

李湖ちゃんの声に呼ばれて見ると、先生に抱き上げられて、門のところからぶんぶん手を振っていた。

「李湖……」

霞湖ちゃんから安堵したような声が聞こえた。

直後、シュバっと駆け出してあっという間に李湖ちゃんのところへ。

「ごめんね、李湖。お姉ちゃん遅くなって」

「りこはだいじょうぶですっ」

「司くんから、お姉さん体調悪いみたいって聞きましたけど、大丈夫ですか?」

先生に問われて、霞湖ちゃんの肩がかすかに震えた。

なんと答えればいいのか迷っているのが背中を見ているだけでもわかったから、隣に並んで俺が説明することにした。

「霞湖ちゃん、やっぱり調子悪くて横になってたみたいなんです。俺が声をかけたら李湖ちゃんのこと心配して飛び起きて……」

体調は問題ないと言っていたけど、ここは少し盛らせてもらう。

李湖ちゃんと先生には申し訳ないけど、今の霞湖ちゃんを責める状況は作りたくない。

「そうでしたか。もしお姉さんが体調不良で、お迎えがお母様に替わることがあったら、電話の一本もいただければ時間を延長して待っていますから、無理はしないでくださいね」

「はい。今回は本当に申し訳ありませんでした」

そう言って、霞湖ちゃんは深く頭を下げた。

「大丈夫ですよ。李湖ちゃん、お姉ちゃんが必ず来てくれるから待ってます、って、ずっとニコニコしてましたから」

横に立っていたから見えたんだけど、先生がやわらかい笑顔で言うと、霞湖ちゃんは泣きそうな顔になったように見えた。