本当に小さな声で、霞湖ちゃんが言った。
「……うん」
俺がうなずくと、霞湖ちゃんはふうっと息を吐きだした。
「……そう、ですか……。……その、桐湖ちゃんたちの件に関すること、聞いたりしちゃうと、ちょっと調子悪くなることがありまして……」
「昼間、それだった?」
俺が話しているうちに、様子が変わった霞湖ちゃん。
「……はい」
「そっか……俺こそごめん。もっと気を付けるべきだった」
霞湖ちゃんの状況は、調べた限りでしか知らない。
でも、少しでも知っているからこそ気を付けられるはずだったのに。
霞湖ちゃんから話しかけてくれて、要望してくれて、浮かれていたんだ、俺は。
「……仕方ないですよ。傷って、本人にもわからないものだし……」
そう言った霞湖ちゃんの横顔は、憂いをたたえていた。
「……」
「優大くん、門限とか大丈夫ですか?」
はっと、今気づいたように霞湖ちゃんが顔をあげて俺を見た。
「うち? そういうのないから大丈夫だよ。実質俺一人暮らしだし」
「え……」
疑問符を浮かべる霞湖ちゃんに、本当のことを言うと決めた。
俺ばかり霞湖ちゃんが隠していることを知っているのは申し訳ないし。
「あんま人には言ってないんだけど、俺、親が国会議員なんだ。母親もふだんそっちに付き添ってて、俺きょうだいいないから、実質一人暮らしってこと。親も帰ってきてても、大体事務所に詰めてるし」
「……この前いた女性は……」
あ、結菜さんのことか?
「親戚。普段は、司の家の方の仕事で、はとこの側近の一人」
國陽の側近は現在三人いて、そのうちの一人だ。
一人は國陽が幼い頃から仕えている人で、もう一人は國陽と同い年で司姓ではない人だ。
「……そういえばなんかすごい家だったんでしたっけ」
うーん、それはちょっと語弊があるかな?
「すごくないよ。この国が出来た時から続く一族ってだけ」
……本当に。ただ、それだけなのに。