古書店の本屋涯は、長いことおじいさんとおばあさんの夫婦が営んできた。

俺も読んでみたい本を探しに行ったことがあるから、場所はわかっている。

この幼稚園からそう遠くない。

古書店が通りに面していて、その奥が家だったはずだ。

この前おろしたところは、お店から見て裏道になる場所だったと思う。

そこまで一気に走った。和造りの平屋は、電気はついていなかった。

「霞湖ちゃーん? いますかー?」

玄関ドアのチャイムを鳴らしても反応はなかった。

今度はドアをノックしたけど、同じ。

カギはかかってるよな? と思ってドアノブを動かしたら、

「……開いた」

いや鍵かかってないんか。

――ということは、家の中に霞湖ちゃんがいる可能性の方が高いってことかな。

もしかしたら、家にも帰ってないことも考えていたから、ちょっと安心した。

「霞湖ちゃんー? ごめん、勝手にお邪魔します」

土間から声をかけた。

家の中は電気がついていない。

土間からあがることも考えたけど、普通に不法侵入だから、庭に回った。

庭だけでもまずいだろうけど、緊急事態という免罪符をかかげさせてもらった。

玄関から近くの部屋の窓の辺りから、霞湖ちゃんの名前を呼んだ。

「か――」

居間らしきところをライトが照らし出して、テレビの前のローテーブルの突っ伏した影を見つけた。

「霞湖ちゃん!? 大丈夫!? 起きて、しっかりして!」

駆け寄ると、窓のカギも開いていた。慌てて窓を開けて呼びかける。

窓際に近い位置に霞湖ちゃんはいたので腕を掴むと「んん~?」と、寝ぼけたような声が聞こえた。

「どうしたの、李湖……」

「俺だよ、優大。勝手に入っちゃったけど、李湖ちゃんが幼稚園で待ってるよ。体調悪い?」

体を半分室内へ入れた不格好で問いかける。

「いや、元気だよ、李湖……李湖? ああああああー!」

あくまで俺を李湖ちゃんだと勘違いしているらしい霞湖ちゃんが、突如叫び声をあげた。

「李湖! 迎え! 今何時!?」

「えと……七時十五分?」

「いやーっ! お迎えの時間とっくに過ぎてる! 待っててね李湖!」

「霞湖ちゃんちょっと落ち着いて! ちゃんと施錠していかないと危ないよ!」

このまま走り出しそうな霞湖ちゃんの腕を掴んで止めると、霞湖ちゃんが俺を見て驚いた。

「はっ! ……て、え? ゆうだい、くん……?」