+++
霞湖ちゃんは、俺たちが午後の授業を受けているときに帰ったと、保健室の先生から聞いた。
鉢合わせしないようにそうしたのだろう。
女子がカバンを持って行った時も受け取ったのは保健室の先生で、霞湖ちゃんとは会えなかったらしい。
「うーん、今まで優大に任せてたけど、優大ばっかの負担になるよな」
「かといって、優大以外とはまだ話しもしてないし……」
――急遽、放課後教室に残れる生徒たちで話し合いになっていた。
部活や委員会のない生徒で、俺を含めて男女合わせて八人だった。
「優大さ、話した感じとか、どんなだった?」
「んー……質問して、なんでもない風に答えてくれるのと、様子が変わるのがある……」
それは最初に感じたことだった。
名前を呼んでいいかと尋ねたときと、心どう茶屋で話しているときだ。
「水束さんの中で触れてほしくないことが、明確にあるのかな……?」
「だとしたら、それを知らないと俺らが傷付けちゃう可能性もあるってことか……」
……うーん、とみんなうなりだした。
さっき俺、どういう話をしたっけ? 確か、旧校舎に人が多いって言われて、文化祭の準備だよって話して、これからの行事のことを話して……だよな? 確か霞湖ちゃんのお姉さんが――、
「さなぎのときみたいに、したくないよ」
女子の一人が、震えるように堅い声を押し出した。
その名前に、みんな視線を下げる。
……俺たちのクラスから、欠けた一人の名前。
「……もうちょっと、様子を見るか」
男子の一人がそう言った。
「つっても、優大に丸投げする気はないから、しんどくなったらちゃんと言ってほしい」
「……うん」
「本当に――あのときの二の舞には、したくねえから」
「……ああ」
俺は細い声でうなずくことしかできなかった。