「――これで理系側の校舎は一回りしたかな。まだ時間あるから、旧校舎も見ていく? もしこの先部活入るようなことがあったら知っておいた方がいいかなって」

「あ、はい」

「じゃあ行こうか」

生徒が行き交う理系クラスの校舎から、渡り廊下を通って旧校舎へ。

今日はこの前たまたま逢ったときと違い、旧校舎にも生徒がいる。

「……なんだか、にぎやか? ですね……」

「ああ、文化祭の準備だよ。うちのクラスもそろそろ何やるか決める時期かな」

「文化祭……」

「そう。文化部の人たちが一足先に準備してるんだ。クラスの出し物は自分のクラスで、部活の出し物は、文化部は所属の部室でやることになってるから」

「そう、なんですね……」

「うん、これからだと、十月に文化祭。体育祭代わりの球技大会は五月に終わってるから、大きなイベントは卒業式くらいかな……。んで、来年も同じスケジュールで、二年の十一月に俺たちの代の修学旅行。それから――霞湖ちゃん?」

一人で説明をしていると、霞湖ちゃんが急に足を停めた。

振り返ると、小刻みに肩を震わせていた。

「霞湖ちゃん? 大丈夫?」

呼びかけても反応はない。

霞湖ちゃんの許まで足を返して、顔の前で手を振った。

「か――」

「ごめんっ、なさいっ!」

名前を呼び終わる前に、のばしていた俺の手を大きく振り払って、霞湖ちゃんが叫んだ。

「わ、わたしっ、戻ります……っ」

踵を返した霞湖ちゃんを、俺はすぐに追えなかった。

振り払われたときに見えた顔は、大粒の涙を目元にして、悔しいような、怒っているような、そんな表情だった。

……俺がさっき口にしたどれかの言葉が、霞湖ちゃんの触れられたくないところに触れてしまったのだろうか……。

霞湖ちゃんのそれは、今まで見た中で一番、感情を感じられた。

でも、……このままにはしておけない。

すぐに教室に戻ったけど、霞湖ちゃんの姿はなかった。

「優大? どうかした?」