「ゆ、ゆう、だい……くん」
「ん? あ、霞湖ちゃん」
翌月曜日、一時間目が終わったあと、隣の席から霞湖ちゃんが声をかけてきた。
その声に、教室中の意識が向くのがわかった。けれどそれも刹那で、みんなはそれぞれの話に戻る。ほんとにいい人たちの集まりだなあ。
――一度、欠けたからか。
「どうしたの?」
みんなが聞き耳を立てているのがわかる中、霞湖ちゃんはそれに気づいていないようで口を開いたり閉じたりしている。
「あの、……その……」
「ゆっくりでいいよ」
そう促すと、霞湖ちゃんは大きく深呼吸した。
「い、今更、なんですけど……」
「うん?」
「が、学校の中、教えてもらえません、か……?」
手をわたわたさせて、落ち着かない様子でそう言った。
「うん、もちろん。じゃあ今の休み時間に、この階見て回ろうか」
そう答えて席を立つと、霞湖ちゃんは焦ったように頭を上下させた。
俺が先に歩き出すと、霞湖ちゃんもついてくる。
俺が教室を出るとき一瞬クラス内を振り返ったら、全員の瞳が俺を見ていて、霞湖ちゃんにわからないようにうなずいてきた。
俺も応えて、軽くうなずく。
――大丈夫だよ。そう、みんなに意味をこめて。
「結構広いから、全体は昼休みでもいい?」
「は、はい」
「この階は一年のクラスが続いてるけど、校舎は三つあって、この文系クラスの第一校舎と、理系クラスの第二校舎。あと、今は主に文化部系の部室になってる旧校舎だね。全部一階の渡り廊下で繋がってるから、昼休みに歩いて説明するね」
「はい」
「そういえばこの前旧校舎にいたけど、知ってたの?」