「水束さん、帰り? 俺も帰るとこなんだー。寄り道するんだけど」

「え……あ……」

水束さんはあまりの驚きに言葉をうしなったようで、口をパクパクさせている。

「妹さん?」

と、手をつないだ女の子に視線を向けると、水束さんは「は……い……」と小さく答えた。

俺は女の子の前にしゃがみこんだ。

「はじめまして。おねえさんと同じクラスの、司優大っていいます。お名前きいてもいいですか?」

「みずつかりこですっ」

りこちゃんは、空いている手を大きく上へあげて、にこにこと名乗った。

「りこちゃんか。おねえさんとお揃いの名前なんだね」

「はいっ。おにいちゃんは、かこちゃんのことすきですか?」

「へっ?」

りこちゃんの突拍子もない質問に面食らって、思わず素で驚いてしまった。

「り、李湖! 何言ってるのっ」

慌てた水束さんも膝を折って、妹を止めようとした。

しかしりこちゃんは得意気に話す。

「かこちゃん、もてもてなんです。まえのがっこうでもいつもかこちゃんにくっついてるおとこのこがふたりもいたんです――」

「李湖! 前のことは言わないって約束したでしょ!」

突然の水束さんの怒鳴り声に、りこちゃんの体が大きく揺れた。

俺もびっくりして固まっていると、水束さんははっとしたような顔になって、りこちゃんを抱きしめた。

「ごめ、ごめんね、李湖……」

「おねーちゃ……」

二人が泣き出しそうな雰囲気になってしまった。

……ちょっと無理やりだけど、引っ張るか。

「水束さん、李湖ちゃん、ちょっと俺に付き合ってくれない?」

泣きかけていた二人は、俺の提案に驚いたらしく目をぱちぱちさせた。