「じゃあ、覚悟しないと」

「覚悟?」

「どれだけ周りから悪く言われても、思われても、自分を揺らがせない覚悟。芯を貫くって、そういうことだよ。俺もそれなりに、付き合い悪いとか、腹の中では何考えてるかわかんねとか、言われてきた。それでも、俺は俺の決めたことを貫きたいから、周りの言葉に左右されない自分を作ってきた。今の俺は、司家と國陽のために生きる道を決めた俺なんだよ。それが俺にとっては、自分のために生きるってことなんだ」

正直、笑顔で言う話ではない。

自分の人生を、他人のために捧げると決めたなんて、自分の命を生きていないと言われるだろう。

でも、違う。俺はそうとは思わない。

大事な親友の力になりたいと思っているのは本当だから、國陽のため、というよりは、力になりたいと思っている自分の思い、そのために生きるって感じだ。

「……あ、誤解しないでほしいんだけど、俺、國陽が好きなわけじゃないからね? 恋愛感情からこういうこと言ってるわけじゃなくて……友情でしかないから。國陽には恋人いるし、俺は恋愛対象女性だし――」

「……私は、逃げました」

俺の必死の言葉は、しかし霞湖ちゃんには聞こえていないような、落ち着いた声で遮られた。

「うん?」

「桐湖ちゃんがあんなことになって、私たちはさらし者になりました。お父さんはまだ向こうにいます。お母さんと李湖と、私を逃がしてくれたんです。でも、お母さんもお父さんと一緒に戦ってます。三宮(さんのみや)の方たちと一緒に。私は……桐湖ちゃんにも、桃華(とうか)ちゃんにも、何もできなくて、すべてが終わってから全部を知って、何も知らなくて、でも私は李湖を護らなくちゃいけなくて、辛くても、お母さんは私なんかよりもっとずっとつらいから何も言えなくて、友達には何も言わずに引っ越したから相談することもできなくて、ずっと――もう、頭の中ぐちゃぐちゃで――李湖を護ることが、私が今生きている意味なんです。だから、それ以外はいらないことにしたんです」

「……うん」

「………しなくちゃ、やってこれなかったんです……」

震えながらも気丈に話していた霞湖ちゃんの声が、ついに嗚咽に呑まれた。

俺は、霞湖ちゃんのような思いをしたことはない。

だから、どういう言葉が、今、通じるのかわからなかった。

泣いている霞湖ちゃんを見てオロオロする李湖ちゃんの肩に手を置いて、もう片方の手を、膝の上で固く握られた霞湖ちゃんのこぶしを覆うように置いた。