……李湖ちゃんがキラキラした瞳で見てくる。
これは何かしら話していないといけないやつだ。
小さい子は嫌いじゃないし、李湖ちゃんいい子だし、話すことに戸惑いはないけど霞湖ちゃんが考え込んでいる状況で話していていいものか……まいっか。
「李湖ちゃん、幼稚園楽しい?」
……あ、しまった。これって霞湖ちゃんに嫌味に聞こえちゃうやつでは……。
「はい! たのしいです! おともだちおます。毎日あそんでます」
李湖ちゃんの言い間違いは面白くて可愛い。
「そっか。よかったね」
「はい。でも、みんなにもあいたいです」
……?
「みんな?」
「まえのようちえんのおともだちです。ばいばいいわずにきました」
「り、李湖っ」
――ああ。そういうことか。
「霞湖ちゃん、大丈夫。そっか李湖ちゃん。でもきっと、それは悪いことじゃないと思うよ」
慌てだした霞湖ちゃんを落ち着かせるように制して、李湖ちゃんに話しかける。
「……そなのですか?」
李湖ちゃんの顔は哀しそうだ。
「うん。人と人の出会いって、どこで重なるかわからないものだよ? 例えば、小学生や中学生になった李湖ちゃんが、たまたまそのお友達と同じ学校になることだってあるかもしれない」
「そなんですか! うれしいです!」
「ね、うれしいね。だからばいばいしたことは、哀しいことばかりじゃないと思うよ」
「………」
てっきり途中で止めに入るかと思っていた霞湖ちゃんだけど、俺の話を聞いて黙り込んでいる。
この隙に李湖ちゃんに色々吹き込んじゃおうか。
いや犯罪になることはしないけど。当たり前。これでも國陽の影。問題を起こすわけにはいかないし、國陽の許嫁が怖すぎて犯罪なんか絶対起こさないと決めている。
「それにね、友達に本当のことを言わないってのも、悪いことばかりではないと思うよ」
「……そう、です、か……?」
霞湖ちゃんがうつむいたまま小さく反応した。
「うん。俺のこの影武者、誰にも話したことないんだ。知ってるのも、司家のごく一握り。小学校からの友達にだって、親友と言えるヤツにだって、話してない」
霞湖ちゃんの目が、驚きにだろう、大きく見開かれる。
「……どうして、ですか?」