「り、李湖っ」
「案内するよ、李湖ちゃん」
「はいっ!」
霞湖ちゃんが頭を抱えた。
「霞湖ちゃん? 気分悪い? あ、車酔いとかする方? たしか酔い止めの薬もあったけど……」
結菜さんが車に備え付けてくれている薬箱を取り出そうとすると、霞湖ちゃんに「だいじょうぶです……」と今にも息絶えそうな声で止められた。
「ほんと?」
「酔ってませんし気分も悪くありません……。あの、本当に知ってるんですか? 桐湖ちゃんのこととか、――」
「桃華(とうか)さんのことも知ってるよ」
「―――」
シートに座りなおして見た霞湖ちゃんは真っ青な顔で固まっていた。
「小埜病院、だよね? だから」
「………」
「俺が小埜病院にいたのは本当たまたまなんだ。あそこにいることは知っていたけど、今回俺が小埜病院に行ったのは完全に別件だったから、霞湖ちゃんたちに逢うとも、逢おうとも思ってなかった。嘘ではなく、俺が首を突っ込むことでもないと思ってるから。言いたいのは、俺は霞湖ちゃんの味方になれるよ、ってこと」
「………」
霞湖ちゃんは俺を見たあと、ゆっくり顔を前に戻して、膝の上で握った自分のこぶしに視線を落とした。
……ここで俺が言葉を重ねれば、霞湖ちゃんは頭の中で情報が渋滞を起こすかもしれない。ちょっと黙っていよう。
と思ったけど。