「霞湖ちゃん、李湖ちゃん、この人は結菜さん。俺の親戚で、当主秘書なんだ」
俺が言うと、霞湖ちゃんは座った姿勢のまま勢いよく頭を下げた。
「は、初めましてっ。水束霞湖です。あと、妹の李湖です。あの、優大くんにはいつもいつもお世話になっておりますっ」
結菜さんは、霞湖ちゃんが危険ではないとわかったのか、穏やかな声で答える。
「こちらこそ、はじめまして。司結菜です。優大様がご迷惑おかけしていませんか?」
「そ、そんなっ。私の方が迷惑かけてばかりなんですっ。優大くん、本当にみんなに優しくて頼りになって、まさに委員長っていう感じでっ」
霞湖ちゃんに熱弁を振るわれて、少し照れくさい。
霞湖ちゃんが小埜病院にいた理由は、恐らくだけどわかっている。
勿論、そのことを他言するつもりもない。
けど、一方的に知られているのも、霞湖ちゃんとしてはあんまりいい気分はしないんじゃないかなって思うところもある。
だから、こうして連れてきた。
「優大様、委員長なんてやってるんですか?」
結菜さんがそこに喰いついてきた。バックミラーで見て来る。
「うん? みんなに推されちゃったからね。やってる」
「……中学では部活まで辞めさせてしまった身としては言ってはいけないかもしれませんが、少しはご自分の時間をお持ちください。それでなくても若当主の名代もされているのですから」
「みょうだい?」
霞湖ちゃんが不思議そうに口にした。
「その説明するために攫って来たんだよ」
「……優大くん、性格違いませんか?」
霞湖ちゃんが俺を見て、思いっきり眉根を寄せた。
はは、と笑って答える。
「学校では当たり障りなくやってるつもりはあるよ。問題起こすの面倒だし」
「申し訳ありません、水束様。優大様はお家のためにとされていることでありまして……若当主の朋友とも言うべき優大様以外に、このお役目を代われる方もいないのが現状でございます」
「さ、さま⁉ あ、あの――」
「結菜さん、霞湖ちゃんを困らせないでって」
俺が言うと、結菜さんは「申し訳ありません」と言って口をつぐんだ。
反対に、霞湖ちゃんは口をぱくぱくさせている。
「さ、わからないことあったらなんでも訊いていいよ? 答えるために連れて来たから」