当代として『龍の心臓』を護り、当主として配下もまとめあげる。

そして当主が現場を大事にする――現場に多く触れていれば、それだけ臣下からの評価も高くなる。

俺も一応司の中心に近い家に生まれた人間として、当主の評判が悪いのはいい気がしない。

当主である以前に國陽はガキの頃から友達だし、友達のために俺に出来ることがあるのならばする。

それだけだ。







あ。

院長室を出て、結菜さんと廊下を歩く。

院長室は最上階の八階で、病棟になる五階に降りたところで知った顔を見てしまった。

向こうも俺をじーっと見て来る。

その幼い眼差しは、誤魔化しなどきかないと言わんばかりだ。

「國陽様!」

おい。一般病病棟でそれはマズいだろ。

呼んだのは俺を追って来た嗣さんだった。

一度、嗣さんに向き直って小声で叱る。

「嗣さん、あなたの部下の手前その呼び方はやめた方がいい」

「あっ、すみません、つい……」

本気でつい、だったようだ。困っている。いや、俺、嗣さんを困らせてしかいないか……。

「で、どうしました?」

「これ、國陽さ――んのお忘れ物かと」

そう言って嗣さんが差し出したのは、掌サイズのメモ帳だった。

「ああ、すみません。手数かけました。ポケットから落としてしまったんですね」

「間に合ってよかったです。お帰り、お気をつけてください」

「ありがとうございます。結菜さん、先に車を廻してきてもらえますか?」

「かしこまりました」

俺が頼むと、結菜さんは先に階下へ向かった。

嗣さんも戻って、未だに俺を見ている視線へと自分のそれを絡ませる。

「よく逢うね」

「えっ……あの、人違い、では……?」

困っているのは、幼い子どもと手を繋いだ小柄な女の子。

俺は構わずに距離を縮める。

至近距離まで詰めて、逃げ場を探すような霞湖ちゃんの邪魔をして壁に手をついた。

「霞湖ちゃん、俺が『國陽』って呼ばれてるの、聞いちゃったよね?」

二日ぶりに逢う学友は、俺を見て――俺の言葉を聞いて、目を見開いた。