「……その子は?」
ふっと、桐湖さんの目が俺に向いた。
ばちっと視線が絡んで、慌てて頭を下げる。
「か、霞湖ちゃんのクラスメイトの、司優大といいます」
「優大くんはなんというか……うちのイケメンマスコット……精神安定剤……きびだんご……」
ケージさんがよくわからない解説をぽつぽつと並べる。
俺きびだんごだったの? だんご? 食い物?
「まあとにかく、霞湖と一番仲のいい子だよ」
と、ケージさんが穏やかな顔で言うものだから、ちょっと焦った。
今の桐湖さんにそういう言葉は危ないんじゃないか――と。
しかし、やはり身内だから反応がわかっていたのか、桐湖さんは俺を見てから、霞湖ちゃんを見た。
「そう……よかったね、霞湖」
その慈愛の眼差しは、妹をうらやんでも、妬んでもいなかった。
純粋に、言葉通りの思いがあることが伝わるものだった。
俺はきょうだいがいないからわからないけど、心から大切に思う存在なんだと、霞湖ちゃんと桐湖さんを見ているとよくわかる。
そして、ずっと霞湖ちゃんと桐湖さんに抱き着いている李湖ちゃんは。
「すー……」
「り、李湖?」
寝ていた。
楓湖さんが李湖ちゃんを抱き上げると、こてんと首が揺れる。
「りこ……眠れてなかったの……?」
楓湖さんを見上げながら、桐湖さんが不安そうに問う。
「大丈夫よ、ちゃんと毎晩寝てるから。車の中で緊張しちゃってたのね。桐湖に会えて、安心したのよ」
ケージさんが楓湖さんの傍に来て、李湖ちゃんを渡した。
ケージさんは李湖ちゃんが眠れるように抱えなおす。
「先生、お騒がせしてすみませんでした。私たち、外にいた方がいいですか?」
と、ずっと待機してくれていたお医者さんと看護師さんに話しかける。