たった一人の親友を亡くした喪失感、助けられなかった悔しさ、独りで逝かせてしまった尽きぬ後悔。
誰も、何も止めず、桐湖さんの涙が枯れるまで、時間を待った。
そう、涙は枯れる。
泣き疲れ、泣き飽きる。
いつまでも泣いているだけでいることはない。
出来ないのではなく、ないのだ。
桐湖さんの涙が、最初の涙がこれ以上は泣けないというところまで尽きると、桐湖さんは霞湖ちゃんから体を離した。
「ごめん、霞湖……」
初めて聞いた桐湖さんのかすれた声は、霞湖ちゃんとよく似ていた。
「私はいいよ。桐湖ちゃんの心配するのは私の役目だから。でも、お父さんとお母さんには謝ってね」
桐湖さんの顔を覗き込んで、しっかりした口調で霞湖ちゃんが言う。
桐湖さんと霞湖ちゃんの姉妹関係がどんなものか、垣間見た気がした。
「うん……お、……」
うなずいたけれど、桐湖さんは言葉に詰まる。
そんな娘の頭を、ケージさんがそっと撫でた。
「いいよ。今は、何も言わなくていい」
優しさが痛い、苦しい。
桐湖さんの顔は、そんな風に言っているように見えた。
今の自分に、優しくしないでほしい。
……いつだったか、俺もクラスメイトに対して似たようなことを思ったことがある。
霞湖ちゃんがパニックを起こして姿を消したとき、探してくれたクラスメイトは一言も俺のことを責めることなく、優大に任せ過ぎた、と謝ってきさえした。
そのみんなの気持ちが、今、わかる。
責めることなんて、誰が出来ようか。
傷ついて傷ついて、これでもかと深い傷を負っている人に、トドメをさすような真似、普通の神経ならば出来るはずがない。
出来るのは、常軌を逸した人。斎月が専門とする側に落ちかけている、または落ちている人なのかもしれない。
……桐湖さんの目覚めは、何をもたらすのだろう。
少なくとも、水束家の人は待っていたそれだ。
しかし、桃華さんの三宮家の方たちはどう思うだろう。
そして、加害者たちもいる。
桐湖さんは、何度も泣くだろう。そのときの涙が枯れるまで。
泣いて泣いて、泣き叫んで、いつか――どうにかでも、前を向いてほしい。
泣くのに疲れたら、ちょっとだけ上を向いてほしい。
泣くのに飽きたら、少しだけ空を見てほしい。
そこまで思う親友ならば、終わりの先で必ず逢える。
ただ、条件はつくだろう。
桐湖さんが天命を生き切った先でしか逢えない、という、条件が。