無言だった。

霞湖ちゃんも、楓湖さんも、俺も何も言わない。

その雰囲気につられてか、李湖ちゃんも口をつぐんでいた。

何度か足を運んだ病室。

ずっと、静かだったそこに。

……病室の中から、声がする。

決して騒いではいない、事務的な声だ。医者や看護師がいるのかもしれない。

「桐湖ちゃん!」

迷わず、ためらうこともなく、霞湖ちゃんが病室に飛び込んだ。

己に迷わない。霞湖ちゃんの強いところ。

楓湖さんとともに霞湖ちゃんの後に続くと、ベッドの向こう側にケージさん、そしてベッドには、上体を起こした桐湖さんがいた。

その桐湖さんを、抱きしめている霞湖ちゃん。

「とーこおねーちゃん!」

李湖ちゃんが大きく呼んだので、抱きかかえていたところを床におろす。

霞湖ちゃんの隣に駆け寄って、ベッドによじ登り霞湖ちゃんと桐湖ちゃんに抱き着く。

ケージさんはそれを黙って見つめていて、楓湖さんは口元を手で覆って、目を涙ぐませている。

「―――泣け!」

お医者さんや看護師さんがいるにも関わらず、いきなり霞湖ちゃんが一喝した。

「か、霞湖――」

「わかってんでしょお姉ちゃん! 今は泣け!」

ケージさんが慌てるのも気に留めず、再び言う。

桐湖さんに向かって。

『わかっている』

それはおそらく、桐湖さんが目覚めた現実の世界のことだ。

桐湖さんがしたことは、後追い。

つまりは、桃華さんのことを認識してそういう行動になった。

混乱から、忘れている可能性――桃華さんに起こったことだけでなく、存在すら忘れているかもしれないと思っていたけど。

……霞湖ちゃんの言葉を受けて、泣き出した桐湖さんを見れば、すべてわかっていることが、わかった。

桐湖さんは泣く。すすり泣きなんかではなく、わんわんと、大声で。