「でも、お前も斎月も、承知の上で婚約したんだろ?」

「……ああ」

「まあ、斎月の仕事、代わりがいないのは痛いだろうなあ……」

「代わりなら一人いる」

淡々と言う國陽。……なんでこいつ、その人には妬かないんだろう。不思議だ。斎月が全面的に信頼している、たったひとりの人。

「……同業のお兄さんだっけ」

「流夜(りゅうや)さんになら任せられるが、……そうなると流夜さんの負担が倍増する。ただでさえあの人、働き過ぎなのに……」

「お前が心配するってどんだけ激務なんだよ……」

「さくと流夜さんはとことん頭の良すぎるただのバカだから」

「彼女とその兄の評価それでいいの?」

國陽にとって重要な位置を占めている二人に向かって。

國陽は「事実なんだ……」と少し憂えている声だった。

斎月の仕事は俺の立ち入れない領域だ。が、斎月は國陽と同い年だと注釈しておかないといけないだろう。國陽も斎月も、現在中学三年生。

話しているうちに、勝手に俺が困っていた空気がやわらいできた気がする。今なら話せそうだ。

「國陽さ、水束霞湖って名前の子、知ってる?」

「みずつか? 漢字は?」

「『水』に、束(たば)って書いて『つか』。霞の湖で『かこ』」

「水束……『桐』に『湖』と書いて、桐湖(とうこ)、という名前なら知っている」

とうこ。

……いや、水束なんて姓自体珍しいだろう。それに合わせて、名前も似ている人を、國陽が知っている……?

「優大?」

國陽が首を傾げて見てくる。

「國陽……まさかだけどその名前の出所って……」

「少し前に、さくから聞いた」

まさか―――。

……斎月の仕事ってのは、犯罪学者、だ。

「お前が聞けるようなら話すけど……聞くか?」

「頼む」

俺は迷わずそう答えた。

國陽は数秒の沈黙ののち、話し出した。

「ある高校で、女子生徒の自殺が相次いでいると言っていた」