平日の朝。
「じゃあお母さん、行ってきます」
部屋の片隅に置かれた机上の写真立てに手を合わせて部屋を出る。
掛札は「入」から「出」にすると玄関に向かう。
久野家に唯一手放しで持ってこれたのは写真立て一つ。
きっと家にあった他の全ての遺品は全てが回収されたか捨てられたかのどちらかだろう。少ない荷物にせめてこの写真だけでもと、こうして持ってこれたのは奇跡に近かった。
学生鞄を持って玄関を出る。
いつもは徒歩で通っている。
久野家は都内から少し離れた、街の景色を一望できる丘の上に存在した。途中、大きな坂が存在し、通学路として普段から使っている。
「おはようございます」
時雨が出れば、そこには一華が先にいた。
「あらおはよう。そっちは確か公立高校だったかしら?」
「はい」
「ふ~ん…」
一華は上品に髪を耳にかけると時雨を上から下に観察する。
「公立高校っていうとこは何というか地味なのね。私立にあるようなエレベーターやカフェテリアも無いと聞くのだけど」
「まあ確かに…カフェテリアは無いですかね。売店ならあります」
「売店?それ何?」
「コンビニの縮小版みたいなもんです。食べ物やお菓子を購入できるんですよ」
すると一華はとても驚いていた。
普段は都内でも有名な私立のお嬢様学校に通っている。
学費は月に百万を超える一流エリート高で、有名人や権力者が多数在籍している。
「食事って一流シェフが作ってくれるのではなくて?信じられないわ」
一華は手入れの行き届いたハニーブロンドの髪をクルクルと弄ぶ。
メイクもバッチリで身につける物全てハイブランド物。
「ま、ド庶民だったアンタにはお似合いじゃなくて?」
アハハ!と笑って一華は待機していた車に乗り込む。
見送りのため立ち止れば向こうは窓を開けてくる。
「あら?時雨は車で行かないのかしら?」
「徒歩で通ってます」
「徒歩で登校?令嬢にあるまじき行為だこと。ああ、貴方は令嬢じゃないんだし関係ないわね。じゃあお先に~」
わざとらしく窓を開けたまま車は発進する。
最後まで申し訳なさを感じさせない態度だった。
「はぁ…なんか朝から疲れた」
遠ざかる車を眺めボーっとする。
別に地味なことに不満なんてない。
これでも都内で一番の偏差値を誇る公立高校に合格したのだ。勉強は嫌いじゃないし、仕事の合間にコツコツと頑張って努力した甲斐があったというもの。
久野家の品格を捨てずに済んだな
合格当初、父からはそう告げられた。
努力ではなく運で救われただけ。
でなければ落ちこぼれに何が出来るというのか。
そう意味を理解した時は腹が立って仕方なかった。
「失礼、お嬢さん」
「は、はい!」
人がいることに気づかなかった。
横から声をかけられてビクッと反応してしまう。
「あ、すまない。急に声をかけて驚かせてしまったか」
「いえ、こちらこそすみません。何かご用でしょうか?」
その人は帽子を深く被り松葉杖をついた高齢の男性だった。
背後には若い男性の姿も控えており、こちらはパリッとした上等なスーツに身を包んでいた。
「私は八雲という。久野家当主に謁見を申し込みたくてね。よければ案内して貰えるかね?」
「当主様にですか?私でよければご案内します」
「そうか、それは助かるな。して、君は何というのかね?」
「失礼しました。私は久野時雨と申します」
時雨が挨拶すれば向こうは一瞬目を見開いた。
「久野時雨…。そうか、君があの…」
「あの…??」
八雲は何処か懐かしむかのような目をすれば、神妙に時雨を見つめた。
それに時雨は不思議そうに首を傾げた。
「…父上、そろそろ行きませんと」
だが直ぐ青年が声をかければ八雲は我に返り、ニコニコと笑った。
「すまない。では頼むよ」
「はい、こちらへどうぞ」
「じゃあお母さん、行ってきます」
部屋の片隅に置かれた机上の写真立てに手を合わせて部屋を出る。
掛札は「入」から「出」にすると玄関に向かう。
久野家に唯一手放しで持ってこれたのは写真立て一つ。
きっと家にあった他の全ての遺品は全てが回収されたか捨てられたかのどちらかだろう。少ない荷物にせめてこの写真だけでもと、こうして持ってこれたのは奇跡に近かった。
学生鞄を持って玄関を出る。
いつもは徒歩で通っている。
久野家は都内から少し離れた、街の景色を一望できる丘の上に存在した。途中、大きな坂が存在し、通学路として普段から使っている。
「おはようございます」
時雨が出れば、そこには一華が先にいた。
「あらおはよう。そっちは確か公立高校だったかしら?」
「はい」
「ふ~ん…」
一華は上品に髪を耳にかけると時雨を上から下に観察する。
「公立高校っていうとこは何というか地味なのね。私立にあるようなエレベーターやカフェテリアも無いと聞くのだけど」
「まあ確かに…カフェテリアは無いですかね。売店ならあります」
「売店?それ何?」
「コンビニの縮小版みたいなもんです。食べ物やお菓子を購入できるんですよ」
すると一華はとても驚いていた。
普段は都内でも有名な私立のお嬢様学校に通っている。
学費は月に百万を超える一流エリート高で、有名人や権力者が多数在籍している。
「食事って一流シェフが作ってくれるのではなくて?信じられないわ」
一華は手入れの行き届いたハニーブロンドの髪をクルクルと弄ぶ。
メイクもバッチリで身につける物全てハイブランド物。
「ま、ド庶民だったアンタにはお似合いじゃなくて?」
アハハ!と笑って一華は待機していた車に乗り込む。
見送りのため立ち止れば向こうは窓を開けてくる。
「あら?時雨は車で行かないのかしら?」
「徒歩で通ってます」
「徒歩で登校?令嬢にあるまじき行為だこと。ああ、貴方は令嬢じゃないんだし関係ないわね。じゃあお先に~」
わざとらしく窓を開けたまま車は発進する。
最後まで申し訳なさを感じさせない態度だった。
「はぁ…なんか朝から疲れた」
遠ざかる車を眺めボーっとする。
別に地味なことに不満なんてない。
これでも都内で一番の偏差値を誇る公立高校に合格したのだ。勉強は嫌いじゃないし、仕事の合間にコツコツと頑張って努力した甲斐があったというもの。
久野家の品格を捨てずに済んだな
合格当初、父からはそう告げられた。
努力ではなく運で救われただけ。
でなければ落ちこぼれに何が出来るというのか。
そう意味を理解した時は腹が立って仕方なかった。
「失礼、お嬢さん」
「は、はい!」
人がいることに気づかなかった。
横から声をかけられてビクッと反応してしまう。
「あ、すまない。急に声をかけて驚かせてしまったか」
「いえ、こちらこそすみません。何かご用でしょうか?」
その人は帽子を深く被り松葉杖をついた高齢の男性だった。
背後には若い男性の姿も控えており、こちらはパリッとした上等なスーツに身を包んでいた。
「私は八雲という。久野家当主に謁見を申し込みたくてね。よければ案内して貰えるかね?」
「当主様にですか?私でよければご案内します」
「そうか、それは助かるな。して、君は何というのかね?」
「失礼しました。私は久野時雨と申します」
時雨が挨拶すれば向こうは一瞬目を見開いた。
「久野時雨…。そうか、君があの…」
「あの…??」
八雲は何処か懐かしむかのような目をすれば、神妙に時雨を見つめた。
それに時雨は不思議そうに首を傾げた。
「…父上、そろそろ行きませんと」
だが直ぐ青年が声をかければ八雲は我に返り、ニコニコと笑った。
「すまない。では頼むよ」
「はい、こちらへどうぞ」



