白鬼の封印師

久野家の朝は早い。
時雨は毎朝五時に起床すると身支度を済ませ台所へ向かう。
平日は制服の上からエプロンをつけて自室を出る。
時雨の使っている部屋は別名・離宮とも呼ばれ、使用人達のいる離れと隣接していた。本家とは廊下を挟んで奥側に存在し、位置として鬼門と呼ばれ恐れられる北東にあった。その為、普段は時雨以外滅多に人の通りはない。

「おはようございます。佐藤さん」

台所に行けば既に朝番の佐藤さんがいた。
久野家ではシフト制で炊事が回っているのだ。

「おはようございます、時雨様。今日もお早い目覚めですこと」

ニコニコの笑顔で微笑めば気さくな人だ。
久野家で働く一人で時雨より少し年上という点から時雨を気遣ってくれる。
時雨にとっては恩人でもある。
無能と呼ばれる自分を蔑むこともせずに「時雨様」と呼んでくる。

「今日は学校もありません。もう少し、ゆっくりされても良かったのですよ?」
「早起きは三文の徳と言いますから。慣れてます。今日は何をしましょうか」
「ふふ、ではこちらに来て一緒に手伝って頂けますか?」

それから二人で雑談を挟みながらも作業はスムーズに終えられた。
和食・洋食。
この家ではどちらも用意するのが鉄則で、父達がどちらを選ぶかはギリギリまで分からないので注意が必要だった。

「今日は焼き鮭ですね!」
「はい。時雨様は鮭がお好きでしたよね」
「昔、よく母と食べてたんです。でも魚全般好きです」

因みに一華は魚が嫌い。
専ら、脂の乗った上等なステーキを母子共に好むせいか、最近では由紀江が体型に文句を言い始めている。

「あれでも服でだいぶ隠している方なんですよ」
「隠す?」
「由紀江様の体型。彼女専属の使用人の中に一人仲のいい子がいるんですけど、何でも着替えでその体型が明らかになるんだとか」
「……そんなにですか」
「ええもう…なんというかダルマのようだとか」
「ダ、、!」
「しぃー!内緒ですよ?こんなの奥様の耳に入ったりでもしたら首が飛びますから」

佐藤さんはいたずらっ子な笑みで舌をベッと台所を後にした。