○◯◯
現世、八雲家。
—バン!
「どういうことだ!」
力の籠った握り拳が勢いよく机へと叩きつけられた。
とある八雲家の奥に存在する一つの一室。
五角の形に設置された柱を中心にして真ん中に設置された机と椅子に腰掛ける男が一人。
何とも奇妙な造りをした。
この異空間な場所に灯される明かりは、それぞれの柱によって取り付けられたロウソクのみであって非常に部屋の中は薄暗い。また柱にはその一本ずつに「木・火・土・金・水」と記された呪符が取り付けられており、上から見ると木を十二時の位置に時計回りにして五芒星を形成していた。
「久野め、この私を欺きよった!時雨を手に入れる我々の計画が丸潰れだ‼」
怒りを露にするのは八雲家の当主、八雲浩司。
彼は勢いを留めることなく感情の気質を更にヒートアップさせていく。
【久野家との話し合いでこの件は解決したのではなかったのか?】
【研究所に送る算段をどう償うつもりだ】
【役立たずなことを。愚者めが】
設置された柱に貼られた各呪符の中から聞こえてくる無数の人間達の声。
「ええい黙れ!八雲家当主であるこの私に無礼であるぞ。こんな筈ではなかったのだ。あの日、息子を連れて久野家に訪れた際、アイツは確かにこの件には同意したのだ」
浩司は額に汗をにじませると数日前までの出来事を思い出していた。
○
「失礼致します」
「何の用だ、お前なんぞにかまっている暇などない。忙しいからさっさと出ていけ」
「…申し訳ありません。実は父上に謁見したいと仰る方がいらっしゃってまして」
「何?誰だ」
その言葉と共に時雨の後に続いて中へと入ってきた人物の姿に藤吉は眉をひそめた。
「久しぶりだな久野。少しいいか」
「八雲…敵の領域に自ら赴くとは大層肝の据わったもんだ。実に愚かな」
「自分の巣窟で息を潜めることしか出来ない鼠よりはよっぽどマシだと思うがね」
「何が言いたい」
「いやこっちの話だ。で?この子が例の」
そう言い時雨へと向き直る八雲。
藤吉は心底めんどくさそうな顔で時雨を一瞥するとポツリと声を発した。
「…久野時雨。一応アイツの子だ」
「ほー、やはりそうか」
「お前はさっさと出ていけ」
「はい、では私はこれで失礼致します」
浩司達へと一礼し、退室する彼女の様子をまじまじと観察する浩司。
「で?八雲家の当主ともあろうお前がここにはなんのようだ」
「息子を紹介したくてな」
浩司の直ぐ後ろに控える男はその言葉に造り笑みを浮かべると藤吉へと向き直る。
「お初にお目にかかります。八雲家当主八雲浩司の息子、八雲朧と申します」
胡散臭い笑みはこいつ譲りか。
その他人を見下すかのような八雲家特有の意地悪い顔つき。だがまだ若いとあってか上手く隠しきれていないのがバレバレだ。皮肉めいた答えしか出てこない藤吉に対し浩司は何処か楽しそうだった。
「で、本題は?」
「はは、流石といったところか。腐っても術家の端くれ」
その言葉に藤吉は一瞬警戒を強めた。
だが今のこの状況、八雲側が圧倒的に不利。
この久野家に護衛の一つもつけずに入り込んだところを察すると何か別の目的が。しかも余程他人には知られたくはない程の事情が訳ありであるということか。
「単刀直入に言う。時雨を貰い受けたい」
現世、八雲家。
—バン!
「どういうことだ!」
力の籠った握り拳が勢いよく机へと叩きつけられた。
とある八雲家の奥に存在する一つの一室。
五角の形に設置された柱を中心にして真ん中に設置された机と椅子に腰掛ける男が一人。
何とも奇妙な造りをした。
この異空間な場所に灯される明かりは、それぞれの柱によって取り付けられたロウソクのみであって非常に部屋の中は薄暗い。また柱にはその一本ずつに「木・火・土・金・水」と記された呪符が取り付けられており、上から見ると木を十二時の位置に時計回りにして五芒星を形成していた。
「久野め、この私を欺きよった!時雨を手に入れる我々の計画が丸潰れだ‼」
怒りを露にするのは八雲家の当主、八雲浩司。
彼は勢いを留めることなく感情の気質を更にヒートアップさせていく。
【久野家との話し合いでこの件は解決したのではなかったのか?】
【研究所に送る算段をどう償うつもりだ】
【役立たずなことを。愚者めが】
設置された柱に貼られた各呪符の中から聞こえてくる無数の人間達の声。
「ええい黙れ!八雲家当主であるこの私に無礼であるぞ。こんな筈ではなかったのだ。あの日、息子を連れて久野家に訪れた際、アイツは確かにこの件には同意したのだ」
浩司は額に汗をにじませると数日前までの出来事を思い出していた。
○
「失礼致します」
「何の用だ、お前なんぞにかまっている暇などない。忙しいからさっさと出ていけ」
「…申し訳ありません。実は父上に謁見したいと仰る方がいらっしゃってまして」
「何?誰だ」
その言葉と共に時雨の後に続いて中へと入ってきた人物の姿に藤吉は眉をひそめた。
「久しぶりだな久野。少しいいか」
「八雲…敵の領域に自ら赴くとは大層肝の据わったもんだ。実に愚かな」
「自分の巣窟で息を潜めることしか出来ない鼠よりはよっぽどマシだと思うがね」
「何が言いたい」
「いやこっちの話だ。で?この子が例の」
そう言い時雨へと向き直る八雲。
藤吉は心底めんどくさそうな顔で時雨を一瞥するとポツリと声を発した。
「…久野時雨。一応アイツの子だ」
「ほー、やはりそうか」
「お前はさっさと出ていけ」
「はい、では私はこれで失礼致します」
浩司達へと一礼し、退室する彼女の様子をまじまじと観察する浩司。
「で?八雲家の当主ともあろうお前がここにはなんのようだ」
「息子を紹介したくてな」
浩司の直ぐ後ろに控える男はその言葉に造り笑みを浮かべると藤吉へと向き直る。
「お初にお目にかかります。八雲家当主八雲浩司の息子、八雲朧と申します」
胡散臭い笑みはこいつ譲りか。
その他人を見下すかのような八雲家特有の意地悪い顔つき。だがまだ若いとあってか上手く隠しきれていないのがバレバレだ。皮肉めいた答えしか出てこない藤吉に対し浩司は何処か楽しそうだった。
「で、本題は?」
「はは、流石といったところか。腐っても術家の端くれ」
その言葉に藤吉は一瞬警戒を強めた。
だが今のこの状況、八雲側が圧倒的に不利。
この久野家に護衛の一つもつけずに入り込んだところを察すると何か別の目的が。しかも余程他人には知られたくはない程の事情が訳ありであるということか。
「単刀直入に言う。時雨を貰い受けたい」