白鬼の封印師

「何?」

まさかの提案には藤吉も分かりやすく反応した。
いつもは敵対する家柄同士が何の用かと思いきや、ここにきて時雨関連の話を持ち掛けられるとは想定外だった。

「なんだ、うちが引き取ることに問題でもあるのか?久野家には下にもう一人異能持ちの娘がいただろう。加えて鬼頭家からは縁談の申し出があったとも聞く」
「確かに鬼頭家から連絡はあった。異能ある娘を引き渡すよう、だいぶ前からな」

だが藤吉はそんな鬼頭家の申し出を断る気でいた。
可愛い娘の一華をあんな化物の元に送るなど。
藤吉という男は親バカで一華が可愛くて仕方なかったのだ。

「なら久野家も安泰ではないか。自分の娘一人差し出すだけで奴らの力が家を繫栄するなど。術師としてこれほどありがたい話はない。たかが花嫁ごとき、一体何が務まるというのやら(笑)。アイツらも愚かな生き物よ。オマエの娘はそれでも数年ぶりに高い異能を受け継いだろう?尚のこと送らない手立てはなかろうに」
「だがそんな一華とは違い、それこそ時雨は無能なただの落ちこぼれ。八雲家になんのメリットがある」

互いに口論が続けば、空気は余計悪くなっていく一方。
だが浩司にはある考えがあったのだ。
どうしても時雨を引き取りたい理由があった。
膨大な量の年月をかけて生み出した何とも恐ろしく未曾有な計画。
不可能を可能にされる異次元のプログラム。
この機会を逃す訳にはいかない。
それには久野時雨の存在が必須。
八雲は必死だった。

「本当にあの子がただの落ちこぼれだと?」
「アイツは久野家の異能を引き継いでいない」
「だがあの子はあの、藤宮(ふじみや)家の子だぞ」

藤宮家。
時雨の母方の家系だ。
久野家の正妻になったと聞き、八雲家も彼女に手を出せずにはいたが事情が変わった。生まれた子供に久野家の異能はなく、その後は母子共に追い出されたが、母親が死んだことで子供は再び久野家へと引き取られた。

「だが母親の異能すら引き継がなかった。使い物にはなるまい」
「なら尚の事こちらが引き取っても問題ないな。どうせここにいても使用人同然に使いふるされるだけなのだ。どうなろうとオマエには関係のない話だろう」

藤吉が父親として少しでも気にかけることがあれば…そう警戒していたが今の発言で確信した。彼は時雨を愛してなどいない。ならば八雲が引き取るのも時間の問題でしかなかった。

「好きにしろ。だが条件がある。アイツを引き取るのは、一華が鬼頭家に嫁入り後、久野家に力が吹き込まれたのを確認出来た後だ。万が一に備え、手持ちの駒は残しておきたい」
「構わん。鬼頭家へ連絡しろ。確認の取れ次第、その娘を速攻鬼頭家へと送れ」




△▼△
「私との約束を差し置いて…そんなに自分の娘が可愛いか!」


金「裏切り者」

水「殺せ」

土「八つ裂きにしろ」

水「殺せ」


汚い罵声がヒートアップする空間で浩司が片手を挙げるとあんなにも煩かった声がピタリと止んだ。流石は八雲家当主。漏れ出る術力のオーラが周りを制圧していた。

「そこまで。当初の予定では妹が鬼頭家へ嫁入り、時雨は八雲家で引き取る手筈だった。だが何を思ったか、久野家は妹でなくあの子を変わりに鬼頭家へ引き渡しよった」
「それも仕方がないことでは?元々彼女は無能である前に久野家の人間。御三家の不仲は今に始まったことではありませんが…序列でみてもウチは一位。次いで南條。久野家としてはここでウチに恥をかかせるつもりなのでしょう」
「……チッ」

朧の言葉に浩司は舌打ちすれば観衆には怒りが湧き上がる。

「(ふんっ、感情を露にさせるとは…)」

プライドだけで見れば八雲家は最悪。
己の欲に忠実なとこきて話もまともに通じない。
そんな愚か共の集まりにわざわざ顔を出してやっただけありがたいと思え。
朧はここにいる人間まとめて見下していた。

「それでもみすみす逃すわけにはいかん。あの子の母親は最後の最後で失敗した。だが期待できる結果を出してくれた。時雨が成功さえすれば、八雲家の力は更なる脅威を生む」


木「だが過去多くの術師が脱落してきた。無能な小娘に務まるのか?」

火「母親すら成功しておらん。封印の修復に失敗すればウチは終わりだ」

水「やめておいた方が得策だ」


「やる価値は十分ある。例え無能でも構わない。手は打ってある…嫁ぎ先には強力なカードもいるしな。もしもの時にはソイツが大いに役に立ってくれるだろう」

千年に一度と称される。
正に神の領域から送り出された国への産物。

「鬼頭白夜…アイツの力を上手く利用さえできれば、、、」

手に持つ一枚の写真。
そこに写るのは、まだ若くこの世に生を受けて数十年と経たない青年。
白い髪に紫色の瞳。
妖を超越した美貌と気迫力漂う一匹の白鬼。
舌を突き出す好奇心旺盛な性格からは本当に鬼神の生まれ変わりなのかを疑ってしまう。

「監視を継続させろ。何か分かり次第、本家へ連絡するように。久野時雨を手にするのは我ら八雲家だ」