白鬼の封印師

現世、八雲家。

「どういうことだ!」

力の籠る握り拳が机へと叩きつけられれば鈍い音が響き渡る。
八雲家に設置された地下一室。
部屋内は五角形に設置された柱と中央にはソファー席が一席設けられていて、そこに深々と座るのは八雲家の当主・八雲浩司(こうじ)であった。

「久野家め…よくもこの私を裏切りおって」
「まあ父上、少し落ち着いて下さいよ」

傍ら席に待機するのは息子の(おぼろ)
かちりとしたスーツ姿で気だるげに父親を見つめていたが、その姿からはまるでやる気を感じられない。

「落ち着いてられるか!それもこれもアイツが勝手な真似をしたせいで…時雨を鬼頭家に送りつけただと?これではこちらの面目丸つぶれではないか」

すると各々の柱付近に設置されていたモニターが騒がしくなる。
映し出された人間の顔にはそれぞれ「木、火、土、金、水」の記載札が下がった奇妙な面をつけ、身バレを防いでいるようにも見えた。室内は薄暗く、灯篭の明かりだけがこの場を照らす唯一の光であったが、なんとも不思議な造りをしたこの部屋は上から見ると「木」の柱を十二時の方向に時計回りに五芒星を形成しているのが分かった。


木「この件は久野家との話し合いで解決したのではなかったのか?」

土「研究所はどうなる。送る算段を踏み誤まられては我らの出番もない」

金「八雲家当主が聞いて呆れる。この愚者めが」

モニターからの罵声が絶えずバッシングの嵐。
そんな無数の声には八雲もわなわなと怒り狂う。

「ええい黙れ!貴様ら八雲家当主であるこの私に無礼であるぞ!!こんな筈ではなかった…あの日、久野家に訪れた際、アイツは確かにこの件を承諾した筈だった」

浩司は額に汗をにじませると数日前までの出来事を思い出していた。




△▼△
「失礼致します」

時雨がノックをして扉を開ければ、中では藤吉が仕事をしていた。
顔を上げた先にいた時雨の姿に藤吉は眉をひそめる。

「何の用だ。忙しいからさっさと出ていけ」
「…申し訳ありません。実はお父様に謁見したいと仰る方が来てまして」
「何?それは誰だ」

その言葉で時雨に続き入ってきた人物の姿に藤吉は目を見開いた。

「久しぶりだな久野。少しいいかね?」
「八雲…貴様、、、。敵陣領域に自ら赴くとはなんと愚かな」
「自分の巣窟で息を潜めることしか能のない鼠よりよっぽどマシだと思うがね」
「…死にたいのか?」

その挑発にピクリと反応した藤吉。
額に血管を浮かばせれば、傍に控えていた護衛が八雲に剣を向ける。

「はっはっは、ほんのお遊びじゃないか。そう興奮するな。オマエに話があってきたのだ」
「……聞こう」

ソファーに向き直る両者からは腹の探り合いが行われていた。
再度、お茶を運びに入室した時雨は緊迫した状況に心が押しつぶされそうになっていた。

「ああ、すまない。…で、この子が例の子なのか?」
「……久野時雨。一応アイツの子だ」

八雲は興味津々に時雨を見れば、藤吉はつまらなそうに口をこぼす。
めんどくさそうに一瞥すれば時雨を手で払う。

「お前はさっさと出ていけ」
「はい…では私はこれで。失礼致します」

退室する時雨を未だ目で追う八雲。
その後ろ姿をまじまじと見つめればやがて乾いた笑みを浮かべていた。

「で?八雲家の当主ともあろう人間がここには一体なんのようだ」
「ああ、息子を紹介したくてな」

浩司の直ぐ後ろに控えた朧は顔に笑みを浮かべれば藤吉に向き直る。

「お初にお目にかかります。八雲家当主八雲浩司の息子、八雲(おぼろ)と申します。お会いできて光栄ですよ」

気立てのいい装い。
だが胡散臭い笑みは八雲家譲りか、、、。
相手を見下すような意地悪い顔つき。
まだ若いだけあって上手く隠しきれていないのがバレバレだ。
そんな皮肉めいた印象しか大して出てこない藤吉だったが、浩司は何処か楽しそうだった。

「…で?本題はなんだ。息子など貴様からしたら大して意味も持たんだろう」
「はは、流石といったところか。腐っても術家の端くれなだけある」

その言葉で藤吉は一瞬警戒を強めた。
だが直ぐに机下での術式を解く。
今のこの状況、八雲側が圧倒的に不利。
久野家に護衛の一つもつけず入り込んだところを察するに何か別の目的があることは確か。しかも余程他人には知られたくないと見える。ご親切に小結界まで張ってある始末だ。

「結界まで張って。よほど小耳に挟まれたくないようだな」
「単刀直入に言う。時雨を貰い受けたい」