笑いながら話す鳳魅を見ていれば、時雨は気になることがあった。
「あの、どうしてそんなに優しくして下さるのですか?」
「ん?僕のことかい?」
「…ここに来てからずっと思っていたんです。花嫁が妖にとって必要であり、優遇されるとは聞きましたが…。それでも私のような人間、普通妖にとっては受け入れ難い存在だと思っていたので」
まだ来て間もない。
それでもここに来てから何かと親切に対応してくれる人が多い。
中には人間と話すこと事態が初めての者もいる。
歴史の中で二つの種族は互いに良いイメージを持たないせいか、花嫁とはいえ毛嫌いされていてもおかしくはない。妖からしたら、人間なんて異質な存在に加えて力もない。良く思われないのは当たり前の事だと思い覚悟していた筈だった。
「罪滅ぼしさ、」
「え?」
「…少し、昔話に付き合ってくれるかい?」
鳳魅はポツリとそうこぼせば再びシーシャを咥えた。
その顔はどこか暗かった。
「僕は邪魅の妖と言っただろう?僕の遠いご先祖様、つまり僕ら邪魅の一族は初め自然から発生した妖なんだ」
何処か遠い過去を懐かしむ横顔。
だがそこに込められた思いには深い哀しみを感じられる。
「邪魅は今昔画図続百鬼に取り上げられる中国の妖。魑魅魍魎。邪魅は魑魅の類であり、魑魅は山林の瘴気から生じ人間を苦しめる妖怪。魍魎は川や木、石といった自然物の精霊から生じて人間を化かす妖怪。これらをまとめて魑魅魍魎。日本ではスダマと和名される鬼の一種でもあり、時に山神とも呼ばれている」
魑魅魍魎。
それは時雨も聞いたことがあり知っていた…が、あまり良いイメージはない。
悪く言えばそれは災いとも取れる妖。
術師が最も毛嫌いし恐れるカテゴリーに分類されていた。
「僕ら邪魅の存在は言わば人間に害を齎す災いだ。僕らが自然界において発する大量の邪気は空気中に多く含まれると人里へと散布していく。先祖は大量の邪気を発生させた。隠世から現世に邪気が漏れ出た原因はここにあるんだ。でも僕達にとっては妖の生む邪気が無ければ生きることは出来ない。…正に負の産物だよ」
邪魅の一族として生まれた鳳魅。
その先祖は隠世で邪気を放つ災いの妖。
他の妖が妖力の消費から邪気を生み出してしまうのに対し、邪魅は妖力関係無しに邪気そのものから生まれ、その邪気を糧として更なる邪気を生み出してしまう。
邪魅は時に人へ憑りつく。
故に久野家では邪気による術師の侵入を防ぐべく、屋敷周辺には封印の結界が張られていた。
「縛りによって交わされた契約が僕ら一族の数を急激に減少させた。僕はその生き残り。花嫁によって邪気の無くなった今の自然界で僕はもう生きられない。だから邪気を大量発生させる三大妖家の一つ、この鬼頭家に居候させて貰ってるわけ」
「……」
「はっは、どうだい?僕が憎いかい?」
「そ、それは……」
正直、自分にはよく分からない。
鳳魅さんの存在は今の自分にとっては命を縮める邪気の元凶。
この人が生きている限り、邪気は今後も衰えることなく生産されていくのだろう。妖の放つ邪気の強さに比例して生まれる邪魅。だがそれもまた強い。鬼頭家にいるとなれば他の邪魅より力もかなり強力だ。
「まあ当然の反応だね。僕は邪魅。どれだけ否定しようと君達人間には害しか与えない妖に変わりない。妖が生き続ける限り、僕もまた生き続ける」
ニヤリと笑った彼を直視できず顔を背けた。
間違ってはいない。
時雨にとっては圧倒的に不利であり、憎んで当然の反応だった。
でも何故だかそれを否定する自分がいた。
「僕はね、僕の存在も。先祖の存在も。それら全てを背負ってでもせめてもの償いをしたいのさ。僕の存在は決してこの先も理解されることはない。だから君達の手伝いがしたかった」
「手伝い?」
「僕はここで薬に特化した薬師の仕事を生業にしてるんだ。対処療法より原因療法。つまり今後は邪気の浄化を花嫁に頼らずとも薬で解決しようよ、って。そういうわけ」
「あの、どうしてそんなに優しくして下さるのですか?」
「ん?僕のことかい?」
「…ここに来てからずっと思っていたんです。花嫁が妖にとって必要であり、優遇されるとは聞きましたが…。それでも私のような人間、普通妖にとっては受け入れ難い存在だと思っていたので」
まだ来て間もない。
それでもここに来てから何かと親切に対応してくれる人が多い。
中には人間と話すこと事態が初めての者もいる。
歴史の中で二つの種族は互いに良いイメージを持たないせいか、花嫁とはいえ毛嫌いされていてもおかしくはない。妖からしたら、人間なんて異質な存在に加えて力もない。良く思われないのは当たり前の事だと思い覚悟していた筈だった。
「罪滅ぼしさ、」
「え?」
「…少し、昔話に付き合ってくれるかい?」
鳳魅はポツリとそうこぼせば再びシーシャを咥えた。
その顔はどこか暗かった。
「僕は邪魅の妖と言っただろう?僕の遠いご先祖様、つまり僕ら邪魅の一族は初め自然から発生した妖なんだ」
何処か遠い過去を懐かしむ横顔。
だがそこに込められた思いには深い哀しみを感じられる。
「邪魅は今昔画図続百鬼に取り上げられる中国の妖。魑魅魍魎。邪魅は魑魅の類であり、魑魅は山林の瘴気から生じ人間を苦しめる妖怪。魍魎は川や木、石といった自然物の精霊から生じて人間を化かす妖怪。これらをまとめて魑魅魍魎。日本ではスダマと和名される鬼の一種でもあり、時に山神とも呼ばれている」
魑魅魍魎。
それは時雨も聞いたことがあり知っていた…が、あまり良いイメージはない。
悪く言えばそれは災いとも取れる妖。
術師が最も毛嫌いし恐れるカテゴリーに分類されていた。
「僕ら邪魅の存在は言わば人間に害を齎す災いだ。僕らが自然界において発する大量の邪気は空気中に多く含まれると人里へと散布していく。先祖は大量の邪気を発生させた。隠世から現世に邪気が漏れ出た原因はここにあるんだ。でも僕達にとっては妖の生む邪気が無ければ生きることは出来ない。…正に負の産物だよ」
邪魅の一族として生まれた鳳魅。
その先祖は隠世で邪気を放つ災いの妖。
他の妖が妖力の消費から邪気を生み出してしまうのに対し、邪魅は妖力関係無しに邪気そのものから生まれ、その邪気を糧として更なる邪気を生み出してしまう。
邪魅は時に人へ憑りつく。
故に久野家では邪気による術師の侵入を防ぐべく、屋敷周辺には封印の結界が張られていた。
「縛りによって交わされた契約が僕ら一族の数を急激に減少させた。僕はその生き残り。花嫁によって邪気の無くなった今の自然界で僕はもう生きられない。だから邪気を大量発生させる三大妖家の一つ、この鬼頭家に居候させて貰ってるわけ」
「……」
「はっは、どうだい?僕が憎いかい?」
「そ、それは……」
正直、自分にはよく分からない。
鳳魅さんの存在は今の自分にとっては命を縮める邪気の元凶。
この人が生きている限り、邪気は今後も衰えることなく生産されていくのだろう。妖の放つ邪気の強さに比例して生まれる邪魅。だがそれもまた強い。鬼頭家にいるとなれば他の邪魅より力もかなり強力だ。
「まあ当然の反応だね。僕は邪魅。どれだけ否定しようと君達人間には害しか与えない妖に変わりない。妖が生き続ける限り、僕もまた生き続ける」
ニヤリと笑った彼を直視できず顔を背けた。
間違ってはいない。
時雨にとっては圧倒的に不利であり、憎んで当然の反応だった。
でも何故だかそれを否定する自分がいた。
「僕はね、僕の存在も。先祖の存在も。それら全てを背負ってでもせめてもの償いをしたいのさ。僕の存在は決してこの先も理解されることはない。だから君達の手伝いがしたかった」
「手伝い?」
「僕はここで薬に特化した薬師の仕事を生業にしてるんだ。対処療法より原因療法。つまり今後は邪気の浄化を花嫁に頼らずとも薬で解決しようよ、って。そういうわけ」



