呼吸が段々と乱れれば徐々に過呼吸を引き起こしていく。だってこんなのあんまりである。
世界を救う代わりとして、花嫁に選ばれた人間は死ねと言われているのと何ら変わりない。近藤さんが言っていた過去に花嫁達がどうなったかを知るデータが無いと言われていた原因は恐らくこれだ。術家が娘達の状況を知ろうと奮闘したところで無意味。
だってきっと、花嫁達はその時にはもう、、、。
「ッ、はあはあ」
息が上手く吸えない。
吸うことが出来なくて苦しい。
なら…なら私はどうすればいい?
久野家を追い出されて、絶対に生き延びると誓った地で突き付けられた衝撃の事実。
なら私に出来ることなんて。
回らない頭で考えれば考えるほど、今の自分はどんどんとマイナスな方へと引き込まれていく。
「落ち着いて、ゆっくり息をして。…顔がチアノーゼのように真っ青だ。ちょっと待ってて」
鳳魅さんは取り乱す私を見ると席を外したが直ぐに何かを持って戻ってきた。
「今はこれで応急処置しか出来ないけど。この布袋に口をあてて呼吸をするんだ。二酸化炭素の濃度が高い袋の中でゆっくりと息を吐くことに専念して。…そう、その調子」
言われた通りにまずはゆっくりと、今は呼吸を安定させることだけに全神経を注いだ。私の背中をテンポよく叩く鳳魅さんのお陰で暫くその操作を繰り返せば幾分かマシになってきた。
「大丈夫かい?…すまない。君にとっては残酷なことを何のためらいもなく話した僕の責任だ。どうお詫びすればいいものやら」
「…い、いえ。軽率に聞いた私が悪いのです。先に聞いておいた身で結果これでは本当に自分が情けないです」
漸くして平常を取り戻すと彼は私へお茶を差し出した。
「飲むといい。蓮の成分が含まれているからリラックス作用が期待できる。僕が一から育てた特別な蓮の花を採集して調合したものだから効果抜群だよ」
「ありがとうございます。頂きます」
香りは普通の緑茶と何ら変わりないが色はピンク色をした個性的なお茶だった。
「これ、、とても美味しいですね!」
「そうだろう!試行錯誤の末にやっと成功させたものなんだ。若もよく気に入って飲んでいるよ」
「え、白夜様が⁈」
鳳魅さんの口から彼の名前が出たことに驚く。
もしや二人は知り合いなのだろうか。
「白夜様とは親しいのですか?」
「まあね。ここにはよく暇つぶしに訪問して来るよ。と言っても僕は彼が吐き出す『負の塊』と名付けた愚痴のあれこれを一方的に聞かされるだけなんだけど」
冷や汗をかきながら鳳魅さんはいかにその愚痴話が末恐ろしいかを語り出す。
そうか、白夜様もここに…。
誰にも自分のことを話したがらないお方だと思っていた。鳳魅さんの前ではそういった顔もされるのか。