白鬼の封印師

呼吸が乱れる。
なんでこうなったんだっけ。
自分はただ生贄として捧げられたような存在と気づいたから?
死ぬ運命を辿ることも重々承知の上で……それでもほんの僅かな希望にかけて、、、。それすら無謀であったと思い知らされた今、成す術なく次第に苦しさで過呼吸を引き起こしまう。

「わ、たし…は…」
「ちょ、時雨ちゃん⁈大丈夫かい⁇」

鳳魅は焦ったように駈け寄れば時雨の顔を覗き込む。
こんなのあんまりだ。
花嫁は世界を救う代わりに死ねと言われて言われているようなもの。
それをどうやって平常心でいろというのか。
なら…なら私はどうすればいい?
久野家を追い出された。
家族に捨てられた。
幸せになりたかった。
だからこそ絶対に生き延びてやると誓ったのに突き付けられた衝撃の事実。
結局あそこを出ても意味はなかったのだ。

「…顔がチアノーゼのように真っ青だ。ちょっと待ってて!」

鳳魅は席を外すと直ぐに何かを持って戻ってきた。

「ごめん応急処置しか出来ないけど。ここに口をあててゆっくり呼吸をして。とにかく心を落ち着かせることに専念して…そう、その調子」

言われた通り、時雨は布袋に口をあてると呼吸を調整する。
隣では鳳魅がテンポよく時雨の背中を撫でてくれる。
そのお陰か数分もすれば体が落ち着きを取り戻していった。

「大丈夫かい?…すまない、君にとっては残酷なことを。何のためらいもなく話した僕がバカだった。どうお詫びをすればいいのやら」
「いえ…軽率に聞いた私が悪いんです。先に聞いておきながら結果これでは…自分が情けないです」

漸くして正常を取り戻せば鳳魅はお茶を差し出す。

「飲むといい。蓮の成分が含まれているからリラックス効果が期待できる。僕が一から厳選した特別な苗を調合して作ったものだ」
「ありがとうございます。いただきます……ん、美味しい」

飲めばスッキリとした味わい。
香りは普通の緑茶と変わりないが色はピンク色をしていた。

「そうだろう!試行錯誤の末にやっと成功したものなんだ。若も気に入ってよく飲みに来るよ」
「白夜様が?」

鳳魅さんの口からまさか彼の名前が出るとは思わなかった。
もしや二人は知り合いなのだろうか。

「白夜様とは親しいのですか?」
「旧友だよ。ここにはよく暇つぶしに訪問しに来るけど。まあ大半、愚直を吐きに来たりするのを僕が付き合ってるだけ」

白夜様も色々と悩みはあるようで鳳魅さんはそれを『負の塊』と名付けていた。そしてその愚痴がいかに恐ろしい量なのかを語り始めるので、彼も聞き手としては苦労しているようだ。
でもそっか……白夜様もここに。
自分のことを話らない冷酷な人だと思っていたのに。
時雨は自分の知らない白夜の事を少し知れたような気がした。