「しかし今から約数十年前のことでした。それは突如として誕生し、一時は隠世界を騒然とさせる事態へと事を発展させたのです」
「一体、何なのですか?」
お茶を入れ直すお香さんの手に力が籠った。
こちらをじっと見つめる力の籠ったお香さんに見つめられ、私はゴクリと唾を飲み込んだ。
「百目鬼神様の容姿は過去のデータをもとにすれば、その容姿は妖達とは比べものにならない程に美しく端麗。溢れ出る妖力は凄まじく強力なものである。加えてその瞳は遠い先の未来を見通せる千里眼であった」
「それが?」
「何よりも特徴的なのは白い髪に紫色を宿す瞳。これが何を意味するかはもうお分かりでしょう」
「…まさか」
「ええ、百目鬼神様のお姿は今の若様の特徴に全て当てはまっておいでなのですよ」
やはりそうか。
まさかとは思っていたがその予感は見事に的中した。
じゃあ白夜様は鬼神様ということ?
でも白夜様は鬼頭家のお方。妖王様の直系のご子息ではない。
「産まれた若様の存在に皆は口を揃えて鬼神様の生まれ変わりだと喜びました。それを証明するかのように若様は幼少期の頃から未来を見通す千里眼の才を開花しておいでです」
「…」
「千年に一度、現れるか現れないかといわれた鬼神様の純血の血のみを継承したお方なのです。周りからは『純血の最高傑作』だなんて影で噂されてる程ですよ」
笑いながら喋るお香さんに私は一緒になって笑える状況にはとてもなれなかった。お会いした時から何か他とは違う雰囲気があるお方だとは思ってはいた。
でもまさかそれほどまでに凄いお方だったとは。
そんなお方になんの異能も持たない無力な私が?
いや、とてもではないが不可能だ。
次元が違いすぎる。
久野家の異能を引き継いでいたのならまだ分からなくもない。何も引き継げなかった時点で私の運命はもう決まっていたのだ。
彼が私の本性に気付くのが先か私が逃げ出すのが先か。
でも逃げたとして何処に行けというのか。
久野家を追い出されもう帰る場所はない。
なにより鬼門の地を渡ってしまい現世に戻ることさえ出来ない。だとしたら、私が逃げられる場所なんて…。
「時雨様?大丈夫ですか?どこが具合でも」
私の表情に気づいたお香さんが心配そうに訪ねてくる。
私は何とか平常心を保つとお香さんに微笑んだ。
「いえ、何でもありません。…ただ少し驚いてしまって」
「そうでしたか…それは無理もありません。突然こちらの世界に連れて来られただけでも不安だというのに。若様のことも絡んでは今はその気持ちに整理をつけるのがやっとでしょう」
「…私なんかにあのお方の花嫁が本当に務まるのでしょうか。私は…私に自信が無いんです」
「時雨様…」
何だろう、とても気持ちが悪い。
抱える荷が重すぎるのだろうか。
目からは自然と涙が零れ落ちた。
今までどんなに苦しく辛い日々を久野家で過ごしてきても人前で涙を晒すことだけはしなかったのに。
泣いたらあの人達の思う壺だから。
絶対に貴方達には負けないんだと。
その自分勝手な自己主張を掲げるのだけは達者で。
それを胸に強く生きてきたはずだったのだ。
でもここでの私は?
人間であり、妖力も無い、異能も無い、力も無い。
私の全てはただ無に等しかった。
どうしようもなく、このもだえる程に苦しい気持ちに私は耐え切れずに涙を流した。
「時雨様、大丈夫です」
ふわりと背中越しに感じられたお香さんの気配。
私はこの時、お香さんが背中越しに自分を抱きしめてくれているのを初めて感じとった。
「一体、何なのですか?」
お茶を入れ直すお香さんの手に力が籠った。
こちらをじっと見つめる力の籠ったお香さんに見つめられ、私はゴクリと唾を飲み込んだ。
「百目鬼神様の容姿は過去のデータをもとにすれば、その容姿は妖達とは比べものにならない程に美しく端麗。溢れ出る妖力は凄まじく強力なものである。加えてその瞳は遠い先の未来を見通せる千里眼であった」
「それが?」
「何よりも特徴的なのは白い髪に紫色を宿す瞳。これが何を意味するかはもうお分かりでしょう」
「…まさか」
「ええ、百目鬼神様のお姿は今の若様の特徴に全て当てはまっておいでなのですよ」
やはりそうか。
まさかとは思っていたがその予感は見事に的中した。
じゃあ白夜様は鬼神様ということ?
でも白夜様は鬼頭家のお方。妖王様の直系のご子息ではない。
「産まれた若様の存在に皆は口を揃えて鬼神様の生まれ変わりだと喜びました。それを証明するかのように若様は幼少期の頃から未来を見通す千里眼の才を開花しておいでです」
「…」
「千年に一度、現れるか現れないかといわれた鬼神様の純血の血のみを継承したお方なのです。周りからは『純血の最高傑作』だなんて影で噂されてる程ですよ」
笑いながら喋るお香さんに私は一緒になって笑える状況にはとてもなれなかった。お会いした時から何か他とは違う雰囲気があるお方だとは思ってはいた。
でもまさかそれほどまでに凄いお方だったとは。
そんなお方になんの異能も持たない無力な私が?
いや、とてもではないが不可能だ。
次元が違いすぎる。
久野家の異能を引き継いでいたのならまだ分からなくもない。何も引き継げなかった時点で私の運命はもう決まっていたのだ。
彼が私の本性に気付くのが先か私が逃げ出すのが先か。
でも逃げたとして何処に行けというのか。
久野家を追い出されもう帰る場所はない。
なにより鬼門の地を渡ってしまい現世に戻ることさえ出来ない。だとしたら、私が逃げられる場所なんて…。
「時雨様?大丈夫ですか?どこが具合でも」
私の表情に気づいたお香さんが心配そうに訪ねてくる。
私は何とか平常心を保つとお香さんに微笑んだ。
「いえ、何でもありません。…ただ少し驚いてしまって」
「そうでしたか…それは無理もありません。突然こちらの世界に連れて来られただけでも不安だというのに。若様のことも絡んでは今はその気持ちに整理をつけるのがやっとでしょう」
「…私なんかにあのお方の花嫁が本当に務まるのでしょうか。私は…私に自信が無いんです」
「時雨様…」
何だろう、とても気持ちが悪い。
抱える荷が重すぎるのだろうか。
目からは自然と涙が零れ落ちた。
今までどんなに苦しく辛い日々を久野家で過ごしてきても人前で涙を晒すことだけはしなかったのに。
泣いたらあの人達の思う壺だから。
絶対に貴方達には負けないんだと。
その自分勝手な自己主張を掲げるのだけは達者で。
それを胸に強く生きてきたはずだったのだ。
でもここでの私は?
人間であり、妖力も無い、異能も無い、力も無い。
私の全てはただ無に等しかった。
どうしようもなく、このもだえる程に苦しい気持ちに私は耐え切れずに涙を流した。
「時雨様、大丈夫です」
ふわりと背中越しに感じられたお香さんの気配。
私はこの時、お香さんが背中越しに自分を抱きしめてくれているのを初めて感じとった。