「大丈夫ですよ」
静かに呟けば、時雨の体を優しく撫でる。
本人は気がついていただろうか、こんなにも震えているという事実に。彼女をここまで苦しめている要因はなんだ。だが恐らく、現世ではだいぶご無理をされていたかもしれない。お香は時雨の様子を見れば悲しくなってきた。
「何があったのかは存じません。ですが苦労されてきたことは言わずとも伝わってくるのですよ」
ーーーよく頑張りましたね
その一言で、時雨は涙が一気に溢れた。
そうだ、自分は誰かに知って欲しかったんだ。
自分を認めてもらいたかった。
少しでいい、少しでいいから。
ほんの少しの努力でさえ、意識を向けてくれる人がいてくれれば、、、。
だってずっと一人孤独だったから。
「お香さん……私、私は、、、」
言ってしまえたらどんなにいいだろう。
異能なんて持たない。
本当は何もできない落ちこぼれなんだと。
だがそれを言った最後、自分は終わるかもしれない。
それは同時に目の前の彼女を信頼していないとも取れる行為だ。こんなに優しくしてくれた人に出会ったことはないせいか、時雨には相手を何処まで信用していいのかに乏しかった。
「時雨様、貴方なら大丈夫ですよ。それは空船でも言った通りです」
「何故、そう思うのです?」
「貴方を一目見た時、それは特別なもののように感じられました。ですからそんなに苦しまないで下さい。貴方ならきっと大丈夫です。あの当主様が認めたほどです」
当主様はここにやって来た時、確かに優しかった。
怖くて挨拶で縮こまる自分を咎めることもせず、花嫁を迎える立場とはいえ、外部からやって来たましてや人間の娘など不気味な対象でしかないというのに。
「当主様はあの若様を育てた立派なお方。そんな彼が花嫁である時雨様を歓迎していた。普段の当主様からは考えられないですよ」
「??」
普段はいつもと違うのだろうか。
自分には温厚で笑顔を絶やさない人にしか見えなかったが。
気になりお香を見るも、彼女は困ったように笑っていた。
「ありがとうございます」
だいぶ落ち着きを取り戻せた。
そのタイミングでお香は離れれば、次に笑って時雨の手を取る。
「私、時雨様と出会えて良かったです。これから先も何があろうと。私は時雨様の味方ですから!」
「お香さん…」
「ですからそんな悲しい顔はなさらず!ここでは気を楽にしてお過ごし下さいね!」
ああ、なんて優しい人なんだろう。
時雨は今日、初めて良縁に恵まれたかも知れないと思えた。
信じていいのだろうか。
深く追求をせず、それでも自分の味方だと言ってくれる彼女。
自然と体の震えは治まっていた。
ーーーーーーーーーー
昨夜までの余韻に随分と浸っていた。
お香の力添えもあってか、ここに来てからの不安な要素がある程度取り除かれ平常心が戻ってきたとこなのに…今の状況をどう説明しよう。
「朝食はこちらで摂っていただきます!」
次の朝、時雨は案内された部屋で朝食を摂ろうとすれば何かがおかしい。
机に用意された食器が向かい側にもセットされていて、、、?
「あの……なんか食器の数が一セット多いように感じるのですが?」
「確かに言われてみればそうですね。担当者が皆違うので分からなくてすみません。私はただこちらに時雨様をお連れするようとしか」
「そうですか……」
「少しお待ち下さいね~」
お香が出て行ってしまうと時雨は用意された座布団に正座し大人しく待つことにした。用意された食器でさえ高価な作りで流石は鬼頭家のお屋敷だな~なんてつい感心してしまった。すると突然、扉がやや乱雑に開いた。
「え?」
「げ、、、」
なんと入ってきたのは白夜様本人だった。
まさかの登場に息を吞むも、それは向こうも同じだったのか時雨を見てポカンとしていた。
「び、白夜様⁈あ、おはようございます…」
なんとか挨拶だけは返すことができた。
昨日は少し会っただけで特に挨拶もしなかったせいか、どうしたものか対応に困ってしまう。だが彼は綺麗な顔を盛大に歪ませていた。
「は?何でテメェがここにいるんだよ」
「えっと…今日からこちらで食事を摂るようにと」
「誰が?」
「それはよく分かりません。ですがお香さんがそう仰っていたので、、、はい…」
「チッ……まさかあの男が、、、」
白夜様は舌打ちをすれば向かい側にどかりと腰を下ろした。
あれ?てっきり出ていくものとばかり思っていたのに。
一つ余分だと思っていた食器は白夜様のものだったのだ。
「…」
「…」
気まずすぎる、、、
お互い一言も発しないまま、壁にかけられた時計の秒針だけが動く。
時雨は汗が背中を伝うのを感じた。
「あ?何見てんだよ」
「ヒィ、、、す、すみません!!」
「チッ」
チラっと彼を見れば目が合い睨まれてしまう。
恐縮して固まっていれば地獄でしかなかった。
「お待たせ致しました!って……若様!?」
戻ってきたお香は白夜の存在にビックリしていた。
そんなお香をジロリと見れば白夜は溜息をついて立ち上がる。
「もういい、戻る」
「え?ちょ、お待ちください!」
それにはお香も慌てて引き留める。
「朝食がまだ終わっていませんよ!?せっかく時雨様もいらっしゃるのですから。どうぞこのままご一緒に」
「は?誰がこんな奴と一緒になんか食うかよ。言っとくけど、俺は認めねぇよ?」
白夜はキッと時雨を睨みつければ出て行ってしまう。
「も~!」っとお香が困ったように見送る中、時雨は悲しくて顔を俯かせた。
静かに呟けば、時雨の体を優しく撫でる。
本人は気がついていただろうか、こんなにも震えているという事実に。彼女をここまで苦しめている要因はなんだ。だが恐らく、現世ではだいぶご無理をされていたかもしれない。お香は時雨の様子を見れば悲しくなってきた。
「何があったのかは存じません。ですが苦労されてきたことは言わずとも伝わってくるのですよ」
ーーーよく頑張りましたね
その一言で、時雨は涙が一気に溢れた。
そうだ、自分は誰かに知って欲しかったんだ。
自分を認めてもらいたかった。
少しでいい、少しでいいから。
ほんの少しの努力でさえ、意識を向けてくれる人がいてくれれば、、、。
だってずっと一人孤独だったから。
「お香さん……私、私は、、、」
言ってしまえたらどんなにいいだろう。
異能なんて持たない。
本当は何もできない落ちこぼれなんだと。
だがそれを言った最後、自分は終わるかもしれない。
それは同時に目の前の彼女を信頼していないとも取れる行為だ。こんなに優しくしてくれた人に出会ったことはないせいか、時雨には相手を何処まで信用していいのかに乏しかった。
「時雨様、貴方なら大丈夫ですよ。それは空船でも言った通りです」
「何故、そう思うのです?」
「貴方を一目見た時、それは特別なもののように感じられました。ですからそんなに苦しまないで下さい。貴方ならきっと大丈夫です。あの当主様が認めたほどです」
当主様はここにやって来た時、確かに優しかった。
怖くて挨拶で縮こまる自分を咎めることもせず、花嫁を迎える立場とはいえ、外部からやって来たましてや人間の娘など不気味な対象でしかないというのに。
「当主様はあの若様を育てた立派なお方。そんな彼が花嫁である時雨様を歓迎していた。普段の当主様からは考えられないですよ」
「??」
普段はいつもと違うのだろうか。
自分には温厚で笑顔を絶やさない人にしか見えなかったが。
気になりお香を見るも、彼女は困ったように笑っていた。
「ありがとうございます」
だいぶ落ち着きを取り戻せた。
そのタイミングでお香は離れれば、次に笑って時雨の手を取る。
「私、時雨様と出会えて良かったです。これから先も何があろうと。私は時雨様の味方ですから!」
「お香さん…」
「ですからそんな悲しい顔はなさらず!ここでは気を楽にしてお過ごし下さいね!」
ああ、なんて優しい人なんだろう。
時雨は今日、初めて良縁に恵まれたかも知れないと思えた。
信じていいのだろうか。
深く追求をせず、それでも自分の味方だと言ってくれる彼女。
自然と体の震えは治まっていた。
ーーーーーーーーーー
昨夜までの余韻に随分と浸っていた。
お香の力添えもあってか、ここに来てからの不安な要素がある程度取り除かれ平常心が戻ってきたとこなのに…今の状況をどう説明しよう。
「朝食はこちらで摂っていただきます!」
次の朝、時雨は案内された部屋で朝食を摂ろうとすれば何かがおかしい。
机に用意された食器が向かい側にもセットされていて、、、?
「あの……なんか食器の数が一セット多いように感じるのですが?」
「確かに言われてみればそうですね。担当者が皆違うので分からなくてすみません。私はただこちらに時雨様をお連れするようとしか」
「そうですか……」
「少しお待ち下さいね~」
お香が出て行ってしまうと時雨は用意された座布団に正座し大人しく待つことにした。用意された食器でさえ高価な作りで流石は鬼頭家のお屋敷だな~なんてつい感心してしまった。すると突然、扉がやや乱雑に開いた。
「え?」
「げ、、、」
なんと入ってきたのは白夜様本人だった。
まさかの登場に息を吞むも、それは向こうも同じだったのか時雨を見てポカンとしていた。
「び、白夜様⁈あ、おはようございます…」
なんとか挨拶だけは返すことができた。
昨日は少し会っただけで特に挨拶もしなかったせいか、どうしたものか対応に困ってしまう。だが彼は綺麗な顔を盛大に歪ませていた。
「は?何でテメェがここにいるんだよ」
「えっと…今日からこちらで食事を摂るようにと」
「誰が?」
「それはよく分かりません。ですがお香さんがそう仰っていたので、、、はい…」
「チッ……まさかあの男が、、、」
白夜様は舌打ちをすれば向かい側にどかりと腰を下ろした。
あれ?てっきり出ていくものとばかり思っていたのに。
一つ余分だと思っていた食器は白夜様のものだったのだ。
「…」
「…」
気まずすぎる、、、
お互い一言も発しないまま、壁にかけられた時計の秒針だけが動く。
時雨は汗が背中を伝うのを感じた。
「あ?何見てんだよ」
「ヒィ、、、す、すみません!!」
「チッ」
チラっと彼を見れば目が合い睨まれてしまう。
恐縮して固まっていれば地獄でしかなかった。
「お待たせ致しました!って……若様!?」
戻ってきたお香は白夜の存在にビックリしていた。
そんなお香をジロリと見れば白夜は溜息をついて立ち上がる。
「もういい、戻る」
「え?ちょ、お待ちください!」
それにはお香も慌てて引き留める。
「朝食がまだ終わっていませんよ!?せっかく時雨様もいらっしゃるのですから。どうぞこのままご一緒に」
「は?誰がこんな奴と一緒になんか食うかよ。言っとくけど、俺は認めねぇよ?」
白夜はキッと時雨を睨みつければ出て行ってしまう。
「も~!」っとお香が困ったように見送る中、時雨は悲しくて顔を俯かせた。



