「初めに言っておくが私には妻と娘がいる。くれぐれも立場をわきまえてくれよ?」
本家へ到着後、早々に父から告げられた言葉に私は黙って頷く。数少ない荷物を片手にやってきた所は何とも大きなお屋敷だった。さっきまで住んでいた家の何倍も大きな造りに目が離せない。
「何してる、さっさと着いて来い」
父の言葉にハッと我に返れば、急いで後に続くようにして敷地内へと入る。
「お帰りなさいませ、ご当主様」
ずっと待っていたのだろうか。
一人の年配男性が玄関口に佇むと父に声をかけた。
「ソイツを離室に連れて行け」
「かしこまりました」
父はコートを受け取る男性にそれだけ言い放つと、私には目もくれず奥の方へと引っ込んでいった。
さてどうしたものかと、私は玄関の脇に佇み中の様子を伺っていると男性はこちらに振り向きニコリと微笑んだ。
「そこにいては寒いでしょう。どうぞ中の方へ」
玄関に入ると何やら視線を感じる。
見れば使用人らしき大勢の人達が私をジロジロと観察しているようだ。無理もない、きっと外部から娘が来る話を何となく聞いていたのだろう。皆が私をさも物珍しいかのような目付きで見つめてはヒソヒソと話している。
「お部屋へご案内致します。こちらへどうぞ」
案内の男性に続けば、私は浴びる程の視線を背に屋敷の奥へと進んでいった。