白鬼の封印師

隠世では昔、妖の邪気による暴走も起こったと聞く。
人間を襲い喰らい続け、人間もまた謎の汚染環境で苦しみを強いられる生活が続いた。
最終的にそれが妖の邪気による仕業だと判明し、花嫁の存在が世界を救ったわけだが。鬼頭家が長年の血を絶やすことなく生き延びてこれたのもまた、花嫁のおかげだし、隠世からすれば花嫁の存在は偉大であった。

「しかし今から約数十年前のこと。世界は再び動いたのです」
「動いた?どういう事ですか?」

お茶を入れ直すお香の手に力が籠る。
こちらをじっと見つめた瞳に時雨も思わず緊張してしまった。

「百目鬼神の容姿は妖を上回る美しさとして有名でした。加えて溢れ出る妖力は凄まじく強大で、瞳は百年後の未来までもを曇りのない眼で見通す千里眼。データにはそう記載が残されているようです」
「千里眼……」
「何よりも特徴的だったのは白い髪に紫色の瞳。…これが何を意味するのか、時雨様は分かりますか?」

白い髪に紫色の瞳?
そう言えばそんな容姿をつい最近何処かで、、、!!
気がついてしまった時、時雨様はハッとした。

「……まさか」

驚いてお香を見れば、向こうは頷いていた。

「百目鬼神の姿は今の若様の特徴そのもの。全てに二人は当てはまっておいでなのです」
「そんな!じゃあ若様はもしや……」

それが本当なら若様は百目鬼神ということになる。
でも若様は鬼頭家の方であって王家との直接的な繋がりはない。
ましては妖王の息子でもない。
そんなことが果たして可能なのか。

「若様の存在に皆が鬼神の生まれ変わりだと口を揃えて喜びました。それを証明するかのように、若様は生まれて直ぐ千里眼の才を開花されておいでです。あの方には未来が見えるのですよ」
「…」

千年に一度。
それはもう現れることなんて決してないであろうと、鬼神様を差して使われた言葉。
そんな彼は再びこの世に君臨した。

「若様は鬼神様の純血の血を継承された方なのです。周りからは『純血の最高傑作』とも噂されてる程ですよ(笑)」

笑いながら語るお香。
だが時雨からしたら、とても笑い話になんてできる状況ではなかった。
会った時から変わった方だと思っていた。
白くて美しい鬼の妖。
それがまさかの神様ともなれば…ましてや未来を見通すなど。
それは最悪、時雨の持つ過去や異能がない事実を知られてしまうケースを否定できないということ。
ましてや自分のような人間が嫁ぐにはあまりにも不釣り合い。

「あれほど知性と強さに満ち溢れた素敵な方が鬼頭家に誕生してくれるなんて。若様に嫁がれる時雨様はなんて幸せ者なんでしょう」
「幸せ?」

ウットリと話す彼女に冷や汗が止まらない。
久野家の異能を引き継いでいればまだしも……引き継げない自分に何ができるというの?
鬼神の生まれ変わり??どう見ても格が違う。
こんなの聞いていない……どうすればいいのか分からない。
若様が私の本性に気付くのが先か。
自分が逃げ出すのが先か。
でも逃げたとして何処に行けばいいの?
久野家を追い出され、もう帰る場所なんて何処にもない。
鬼門の地を渡ってしまった今、現世に帰ることなんてできないし、、、。
全てが皆無だった。

「時雨様?大丈夫ですか⁈どこが具合が悪いのでは??」

お香が心配そうに尋ねてくる。
見れば体が恐怖で震えていた。

「あ、私ったら…嫁入り前の方になんて話を!本当に申し訳ございません!!」

お香は慌てて頭を下げる。
それにはゆっくりと息を吐きながら笑顔で首を振った。

「いえ…大丈夫です。少しビックリしただけですから」

噓だ。
本当は怖くて怖くて仕方ない。
そもそも早々に殺されていて可笑しくはない身であることに変わりはない。それを奇跡的に何もなかったからと、ここまでスムーズに事が運び過ぎていた。

「私なんかに花嫁が務まるのでしょうか……私は自分に自信が無いんです」
「時雨様…」

何だろう、、、気分が悪い。
グルグルと答えの出ない思考回路の中、自分の進みたい道は定まらずに苦しくなれば涙目だ。
どんなに辛くても人前で泣くことはしなかったのに。
絶対に負けたくない。
久野家での生活では常に思い描き、心の隅で応援してくれる母を思いながら耐え忍んできた。だからどんなに過酷な人生となろうがきっと大丈夫だろうと覚悟していた筈なのに。
人間である前に異能も力も無い。

「時雨様」

だがふわりとした感覚に身を包まれれば、お香が時雨を抱きしめていた。