「ここでお待ちください」
お香さんに案内された場所は広く大きな大広間。
初めて久野家で一華さん達と対面した時と同様、そこは和室の部屋だった。
辺りは一面に奥まで広がる畳の床に両側は吹き抜けがよく全開に開いた障子張りの扉。
その扉と木製でできた高欄との間にある長い廊下。
座る位置から垣間見える外の景色は夜とはいえ、明かりが灯る提灯や部屋につく明かりの効果も相まってか夜のお祭のようで幻想的な空間を形成していた。
「先程も仰っしゃいましたが、鬼頭家の現当主様の跡継ぎとなられますご子息様は名を鬼頭白夜様といいます。少しぶっきらぼうな性格ではありますが根はとてもお優しいお方ですから。怯まず頑張って下さいね!」
「あ、ちょっと!」
お香さんは私にペコリとお辞儀をするとそれだけ言ってその場を後にしてしまった。
「…フォローになってませんよ、お香さん」
千年に一度と噂されるお方。
一体どんなお方なのか全く想像がつかない。
会って早々に襲われるかもしれない。
そんなに強い妖力を持つというのなら、私に異能が備わっていないのを直ぐにでも見抜いてしまうのではないだろうか。
唯一頼りになるお香さんもいなくなってしまった。
私の不安は募る一方だ。
「そちが久野家から参った花嫁か」
突如、吹き抜けの扉からは声がすると入って来る者が二人。
黒い髪に赤い目が特徴的な二本の角を生やした男性。
綺麗な顔立ちで年齢はとても若く見えるが放たれる気配が強い。
「お初にお目にかかります。久野家から参りました、久野時雨と申します」
圧倒的な威圧感に少々怯えながら、私は頭を深く下げると目の前へと鎮座した相手へ挨拶をした。
「よいよい顔をあげなさい。堅苦しい挨拶は置いといて、そなたの顔を拝ませてくれ」
その一言で私はゆっくりと顔を上げれば目の前の人物を見た。
ふと、その方から視点を外して視界に入り込んだ別の人物の存在。
「(あ、この方だ)」
一目で分かった。
中央に鎮座するお方から一つ段が低くなった場所で正座をすればジトリとした目で私を見つめる。
一言で言い表せば「美しい」の一言に尽きる。
白いセンター髪にアメジストの宝石を封じ込めたかのような綺麗な瞳。
鬼の象徴ともいえる長く先の尖った二本の白い角。
透き通るような滑らかで透明な白い肌に同じく白く長いまつ毛。
この世のものとは思えない程に恐しく整った顔立ちがそこにはあった。
来ている着物がより一層、彼の存在を引き立たせているのがよく分かる。
そして何より、体から溢れ出ている強い妖力への気配。
鎮座するお方と比べてもその威力は圧倒的だ。
異能の才を待たない私ですらここまで感じ取れるのだ。
一華さんが来ていたらどうなっていたことか。
「はは、息子が珍しいか?」
「も、申し訳ありません!」
随分と長い間、観察をしてしまったらしい。
当主様への配慮に欠けてしまった過去の自分を深く悔いたい。
「無理もない、息子はある意味で目立ちすぎる。時雨といったか、私は鬼頭家の当主を務める鬼頭深夜という。この度は現世からの長旅ご苦労であったな」
深夜と名乗るご当主様は私を咎めることもなく優しく微笑んだ。
「け、」
その直後として発せられたもの。
それは紛れもなく側に控えていた彼本人からのものであることが分かった。
「で、こいつがその久野家からの人間?は、ただの雑魚じゃねぇかよ」
彼はゴミを見るかのような眼差しで私を見下すと意地悪く笑った。
「えっと…」
突然の雑魚呼ばわりには私も思わず困惑してしまう。
「こら白夜、立場をわきまえんか!仮にもこの子はお前の婚約者となり、ゆくゆくはお前を支える上で大事な存在になるのだぞ」
「は?こんなちんちくりんに俺の補佐が務まるかよ。そもそも俺はこの結婚話には反対だったんだ。どう思おうが俺の勝手だろ。おいお前!」
彼は私へびしりと指を突き刺すとイライラした様子を隠すことなく立ち上がり、困惑気味の私を冷たく見下ろせば苛立ち顔のままギロリと睨み付けた。
「うぜぇ。一つ言っとくけど、間違えても俺に愛されるだなんて下らねぇ考えは持つなよ?俺はお前を愛さない」
そう吐き捨てるとご当主様の話には耳も傾けず、入ってきた扉から外へと出て行ってしまった。
お香さんに案内された場所は広く大きな大広間。
初めて久野家で一華さん達と対面した時と同様、そこは和室の部屋だった。
辺りは一面に奥まで広がる畳の床に両側は吹き抜けがよく全開に開いた障子張りの扉。
その扉と木製でできた高欄との間にある長い廊下。
座る位置から垣間見える外の景色は夜とはいえ、明かりが灯る提灯や部屋につく明かりの効果も相まってか夜のお祭のようで幻想的な空間を形成していた。
「先程も仰っしゃいましたが、鬼頭家の現当主様の跡継ぎとなられますご子息様は名を鬼頭白夜様といいます。少しぶっきらぼうな性格ではありますが根はとてもお優しいお方ですから。怯まず頑張って下さいね!」
「あ、ちょっと!」
お香さんは私にペコリとお辞儀をするとそれだけ言ってその場を後にしてしまった。
「…フォローになってませんよ、お香さん」
千年に一度と噂されるお方。
一体どんなお方なのか全く想像がつかない。
会って早々に襲われるかもしれない。
そんなに強い妖力を持つというのなら、私に異能が備わっていないのを直ぐにでも見抜いてしまうのではないだろうか。
唯一頼りになるお香さんもいなくなってしまった。
私の不安は募る一方だ。
「そちが久野家から参った花嫁か」
突如、吹き抜けの扉からは声がすると入って来る者が二人。
黒い髪に赤い目が特徴的な二本の角を生やした男性。
綺麗な顔立ちで年齢はとても若く見えるが放たれる気配が強い。
「お初にお目にかかります。久野家から参りました、久野時雨と申します」
圧倒的な威圧感に少々怯えながら、私は頭を深く下げると目の前へと鎮座した相手へ挨拶をした。
「よいよい顔をあげなさい。堅苦しい挨拶は置いといて、そなたの顔を拝ませてくれ」
その一言で私はゆっくりと顔を上げれば目の前の人物を見た。
ふと、その方から視点を外して視界に入り込んだ別の人物の存在。
「(あ、この方だ)」
一目で分かった。
中央に鎮座するお方から一つ段が低くなった場所で正座をすればジトリとした目で私を見つめる。
一言で言い表せば「美しい」の一言に尽きる。
白いセンター髪にアメジストの宝石を封じ込めたかのような綺麗な瞳。
鬼の象徴ともいえる長く先の尖った二本の白い角。
透き通るような滑らかで透明な白い肌に同じく白く長いまつ毛。
この世のものとは思えない程に恐しく整った顔立ちがそこにはあった。
来ている着物がより一層、彼の存在を引き立たせているのがよく分かる。
そして何より、体から溢れ出ている強い妖力への気配。
鎮座するお方と比べてもその威力は圧倒的だ。
異能の才を待たない私ですらここまで感じ取れるのだ。
一華さんが来ていたらどうなっていたことか。
「はは、息子が珍しいか?」
「も、申し訳ありません!」
随分と長い間、観察をしてしまったらしい。
当主様への配慮に欠けてしまった過去の自分を深く悔いたい。
「無理もない、息子はある意味で目立ちすぎる。時雨といったか、私は鬼頭家の当主を務める鬼頭深夜という。この度は現世からの長旅ご苦労であったな」
深夜と名乗るご当主様は私を咎めることもなく優しく微笑んだ。
「け、」
その直後として発せられたもの。
それは紛れもなく側に控えていた彼本人からのものであることが分かった。
「で、こいつがその久野家からの人間?は、ただの雑魚じゃねぇかよ」
彼はゴミを見るかのような眼差しで私を見下すと意地悪く笑った。
「えっと…」
突然の雑魚呼ばわりには私も思わず困惑してしまう。
「こら白夜、立場をわきまえんか!仮にもこの子はお前の婚約者となり、ゆくゆくはお前を支える上で大事な存在になるのだぞ」
「は?こんなちんちくりんに俺の補佐が務まるかよ。そもそも俺はこの結婚話には反対だったんだ。どう思おうが俺の勝手だろ。おいお前!」
彼は私へびしりと指を突き刺すとイライラした様子を隠すことなく立ち上がり、困惑気味の私を冷たく見下ろせば苛立ち顔のままギロリと睨み付けた。
「うぜぇ。一つ言っとくけど、間違えても俺に愛されるだなんて下らねぇ考えは持つなよ?俺はお前を愛さない」
そう吐き捨てるとご当主様の話には耳も傾けず、入ってきた扉から外へと出て行ってしまった。