「着きました!鬼頭家です」
あれから空船を下りて辿り着いた場所は、自分が今までに見たどの家よりも大きな造りをした立派なお屋敷だった。現世では名家として他の家より遥かに大きく見えていた久野家のお屋敷でさえ、このお屋敷にかかれば半分にも満たない。
「す、凄い…」
思わず口あんぐりの私にお香さんは面白そうに笑う。
「そんなに大きいですかね?」
「もの凄く大きいですよ⁈それはもう久野家とは比べ物にならないぐらい」
中に入っても玄関までの距離が長い。
庭掃除をする使用人がチラホラと伺える。
お香さんの後に続くも歩く度に突き刺さる視線が痛い。
「(私見られてるわ…)」
ヒソヒソと話し合う声。
居心地が悪すぎて下を向いてしまう。
「ふふ、みんな花嫁様の存在が珍しいのですよ。なんせ数十年ぶりに迎えるものですから」
「そうなんですね…」
お互いにお互いの存在を干渉してこなかった。
妖にとってみれば人間の存在自体を不思議に感じるのも無理はない。
こんな機会でも無い限り、会うことは普通ないのだから。
私達人間が妖の存在を気味悪がるように。
もし自分の存在が彼らからも同じような目で見られていたらどうしよう。
「お香!」
「げ、お翠様!」
「お翠様?」
お香さんを呼ぶ声が聞こえれば向こうからやってくる者が一人。
黒いボブカットの髪に吊り目が特徴的な額から角を生やした若い女性だった。
「あんた一体今までどこで油売ってたの!仕事もせずにこんな時間まで」
「きゃー!すみませんお翠様!」
ペコペコと頭を下げるお香さん。
私はどうしたものかと困惑してしまう。
「ん?誰よあんた」
私の存在に気づいたお翠さんがずいっと近づくとジロリと睨みつけてくる。
「…は?人間!?ちょっと何者よあんた!」
お翠さんは私の存在が人間と分かれば警戒を強めた。
「ちょ、お翠様!この方は花嫁様だよ!ほら、例の若様の」
お香さんはずいっと前へ出るとお翠さんの前に手を広げて私を庇う。
「花嫁…。あー、あの」
彼女は納得したのか今度はジロジロと私を観察し始めた。
「あ、あの!私、久野家から参りました。久野時雨と申します。宜しくお願い致します」
私は自己紹介を兼ねて頭を下げた。
「…不細工ね」
「え?」
お翠さんは腕を組むと何処か値踏みするような眼差しを向けた。
「花嫁どかの噂は聞いていたけど。とんだ不細工な子がやって来たものね。とてもあの方に釣り合うとは到底思わないわ」
「え、あの…」
そう言われても反応に困ってしまう。
実質、自分は一華さんの代役に過ぎないから。
「ちょっとお翠様!!」
あんまりだという顔で噛み付くお香さんにも彼女はふんっと鼻を鳴らした。
「何、可笑しなこと言ったかしら?第一、花嫁を迎い入れるなら鬼門の地には、あの方自らが出向いてご案内して差し上げるのが原則ではなかった?」
「ぐっ」
「でもその様子じゃ、とうの若様は出向かなかったということでしょ?だからあんたが代わりに行くよう当主様から頼まれたんじゃなくて?」
「ぐぬぬ…。で、でもそれを頼んだ当主様は花嫁様の到着をとても楽しみにしておられましたよ?」
「楽しみ?妖力の糧となる身の存在を評価しているというのなら分からなくも無い話けど。でも申し訳ないけど、私はこんな芋くさい子に将来仕える身になるのだけは死んでもお断りよ」
お翠さんは冷たくそう吐き捨てた。
そして去り際に私を睨みつければ、さっさと向こうへ歩いて行ってしまった。
「もお~お翠様ったら相変わらずの性格なんだから。あ…すみません花嫁様。もしや気分を害されたのでは?」
「いえ平気です。慣れておりますから」
何だろう誰かに似ている。
あ、一華さんだ。
正面から突っかかってくる姿といいガツンときつくあたる姿といい。
あまり気持ちの良いものではないが第二の一華さんだと思えば気分は幾分かマシに思えた。
あれから空船を下りて辿り着いた場所は、自分が今までに見たどの家よりも大きな造りをした立派なお屋敷だった。現世では名家として他の家より遥かに大きく見えていた久野家のお屋敷でさえ、このお屋敷にかかれば半分にも満たない。
「す、凄い…」
思わず口あんぐりの私にお香さんは面白そうに笑う。
「そんなに大きいですかね?」
「もの凄く大きいですよ⁈それはもう久野家とは比べ物にならないぐらい」
中に入っても玄関までの距離が長い。
庭掃除をする使用人がチラホラと伺える。
お香さんの後に続くも歩く度に突き刺さる視線が痛い。
「(私見られてるわ…)」
ヒソヒソと話し合う声。
居心地が悪すぎて下を向いてしまう。
「ふふ、みんな花嫁様の存在が珍しいのですよ。なんせ数十年ぶりに迎えるものですから」
「そうなんですね…」
お互いにお互いの存在を干渉してこなかった。
妖にとってみれば人間の存在自体を不思議に感じるのも無理はない。
こんな機会でも無い限り、会うことは普通ないのだから。
私達人間が妖の存在を気味悪がるように。
もし自分の存在が彼らからも同じような目で見られていたらどうしよう。
「お香!」
「げ、お翠様!」
「お翠様?」
お香さんを呼ぶ声が聞こえれば向こうからやってくる者が一人。
黒いボブカットの髪に吊り目が特徴的な額から角を生やした若い女性だった。
「あんた一体今までどこで油売ってたの!仕事もせずにこんな時間まで」
「きゃー!すみませんお翠様!」
ペコペコと頭を下げるお香さん。
私はどうしたものかと困惑してしまう。
「ん?誰よあんた」
私の存在に気づいたお翠さんがずいっと近づくとジロリと睨みつけてくる。
「…は?人間!?ちょっと何者よあんた!」
お翠さんは私の存在が人間と分かれば警戒を強めた。
「ちょ、お翠様!この方は花嫁様だよ!ほら、例の若様の」
お香さんはずいっと前へ出るとお翠さんの前に手を広げて私を庇う。
「花嫁…。あー、あの」
彼女は納得したのか今度はジロジロと私を観察し始めた。
「あ、あの!私、久野家から参りました。久野時雨と申します。宜しくお願い致します」
私は自己紹介を兼ねて頭を下げた。
「…不細工ね」
「え?」
お翠さんは腕を組むと何処か値踏みするような眼差しを向けた。
「花嫁どかの噂は聞いていたけど。とんだ不細工な子がやって来たものね。とてもあの方に釣り合うとは到底思わないわ」
「え、あの…」
そう言われても反応に困ってしまう。
実質、自分は一華さんの代役に過ぎないから。
「ちょっとお翠様!!」
あんまりだという顔で噛み付くお香さんにも彼女はふんっと鼻を鳴らした。
「何、可笑しなこと言ったかしら?第一、花嫁を迎い入れるなら鬼門の地には、あの方自らが出向いてご案内して差し上げるのが原則ではなかった?」
「ぐっ」
「でもその様子じゃ、とうの若様は出向かなかったということでしょ?だからあんたが代わりに行くよう当主様から頼まれたんじゃなくて?」
「ぐぬぬ…。で、でもそれを頼んだ当主様は花嫁様の到着をとても楽しみにしておられましたよ?」
「楽しみ?妖力の糧となる身の存在を評価しているというのなら分からなくも無い話けど。でも申し訳ないけど、私はこんな芋くさい子に将来仕える身になるのだけは死んでもお断りよ」
お翠さんは冷たくそう吐き捨てた。
そして去り際に私を睨みつければ、さっさと向こうへ歩いて行ってしまった。
「もお~お翠様ったら相変わらずの性格なんだから。あ…すみません花嫁様。もしや気分を害されたのでは?」
「いえ平気です。慣れておりますから」
何だろう誰かに似ている。
あ、一華さんだ。
正面から突っかかってくる姿といいガツンときつくあたる姿といい。
あまり気持ちの良いものではないが第二の一華さんだと思えば気分は幾分かマシに思えた。