「足元にお気を付けください。これより先は部外者意外がこの鬼門より先、立ち入ることは固く禁じられております。私の案内もここまでとなります」
運転手の言葉にゴクリと喉を鳴らして鬼門の先を見つめた。
特に変わった様子は先の光景には見えない。
鬼門とはいえど、ここも他の神社と何ら変わりはないように見える。
赤い大きな鳥居が構える正面入口から中に入る。
直ぐに現れた真っ正面に奥へと続く長い石段。
ここからでは向こう側が確認出来ないが石段の両側には桜が咲き乱れていた。
「不思議…冬だというのに桜が咲いている」
昨日の夜から降り続けている雪の影響で道は塞がっている。
着物を着ている為ともあってか足幅もだいぶ狭く行動範囲が限られている。
それでも桜は咲き誇り満開だった。
「ここは特殊な空間ですからね。何せこの先には妖が住まう隠世の世界が形成されている訳ですから。我らのような特別な異能を持つ術家の人間でもない限り、この場所は本来一般の方が見つけることは不可能なのです」
「そうなのですか」
「ただ霊感があるだけでは駄目なのです。この場所は今後、両世界においてとても重要な役割を果たす境の場でもありますから。何かの拍子に結界が崩れれば最悪、取り返しのつかないことも視野に入れて。その昔、妖王ご自身が強力な妖力を使いこの結界を施したとされています」
成程、道理でさっきから人の気配を感じない訳だ。
ここが現世と隠世を結ぶ境界に位置する場所と知らなければ、こぞって観光客が集まるぐらい隠れスポットともいえるのに。
冬に咲き乱れる桜だなんて。
いかにも幻想的ではないか。
「桜は季節関係なく永遠に枯れることなく咲き続けておられます。日本を象徴する花の一つに桜が挙げられているのは時雨様もご存知でしょう。雛祭りで桃の花が飾られているように、桜にも魔除けや邪気払いをしてくれる効果があるのです。隠世に住まう妖が何かの拍子に鬼門の地に近づかないよう、妖王が結界を造ったのと同時に現世の王は桜を植えられたのですよ」
「随分詳しいんですね」
「ええ…まあ。私も腐っても久野家の分家にあたる身。久野家を支えお従いする役目を担うことこそ私に与えられた使命ですから」