白鬼の封印師

一華は意地悪く微笑めば時雨から離れる。

「縁談先である鬼頭家は、実に千年に一度といえる純血の血を宿すご子息が産まれたそうだ。名を鬼頭白夜(びゃくや)様という。くれぐれも粗相のないようにするのだ。いいな?」
「…はい」

父からの問いかけに力なく答える。
逃げ場は完全に断たれた。

「ならさっさと支度にかかれ。一つだけ言っておく。もうこれでお前は嫁入りする身となったのだ。今後一切、何が起ころうと久野家の仕切りを跨ぐことは許さん」
「…分かりました。皆様、今までお世話になりました」

時雨は父の言葉に頷けば部屋を後にした。
藤吉はその様子を見届ければ満足そうに頷き、一華へ向き直る。

「さあ一華、これでお前が隠世に嫁ぐ必要も無くなった。これからは安心してこの久野家の良い貢献者となりなさい」
「勿論そのつもりよ。私にはお慕いしている殿方がいるんですもの。結婚するなら絶対その人と決めてるんだから!」

一華はふんっと時雨の出ていった扉を見つめ鼻を鳴らす。

「ふふ、貴方が決めた相手ならきっと素晴らしく素敵な方なのね」
「ええ、一目惚れした方なの。あんなに綺麗な殿方に会えたのは生まれて初めてだったから。絶対に運命的な出会いだって信じてるの。私の人生、醜い化け物なんかに邪魔されてたまるもんですか!」

ウットリと話す娘の様子に由紀江も嬉しそうだ。

「いずれあの子に久野家の異能が無いと分かっても、喰えばそれなりの力にはなるだろう。一族は期待通り娘を差し出したのだ。これで我が家も安泰だな」




△▼△
準備が整った時雨は自室の布団の中で考え事をしていた。
外を見れば雪が降っている。
あの頃と同じ。
母が死んだ日も同じく雪が降っていた。

「私が鬼の元へ嫁ぐ…」

チラリと視界には着物掛けが映る。
黒色の生地を主に水色から青色へ綺麗にグラデーションされた着物には、薔薇やカーネーション、マリーゴールドといった白や紫を主色にした花が散りばめられた一着の着物。あんな高級な着物、普段自分が着ているものとは比較できない程に一級品であることなど聞かなくても分かる。父は普段の私から嫁入りに着ていく着物の一着も持っていないことを知ってこの日の為にわざと用意したのだ。

惨めでどん底な領域に叩き落とす。
そして最後には救世主の如く救い出したかのように振る舞う。

全ては久野家の繁栄のため。

妖に気に入られれば術家には強いご利益が吹き込まれるのだとか。
父は何としても例のご子息様から膨大な妖力の糧を貰い受けたいのだろう。

私も遂に捨てられた、、

「母上、申し訳ありません」

自然と悲しくはなく涙は出てこなかった。
でもずっと謝りたかった。
ポツリと溢れたその言葉は冷たい部屋に跡形もなく消えていけば、外には乾いた雪がパラパラと降り積もるだけであった。