邪気は何も妖だけが発するものでは無い。
憎しみや悲しみ、妬みや恨みといった負の感情が心に溜まるほど人間からも邪気は生まれる。
こうした邪気は現世を蝕み、草木を腐らせ朽ちた森は瘴気を放ち毒を鱗粉していく。後にこれを人間が体内に吸い込めば毒素による有害物質への過激摂取を受け自身を死へと追い込んでしまう。
当時、術師達はこうした問題の原因が人間の気から生まれる邪気の仕業であると分かると直ちに浄化作業を開始した。とはいえ、人間が発する邪気のほとんどは悪性化する前に自然消滅してしまうことが多い。
そのためかそこまで有害な被害が出ることはなかった。
暫くすると現世は術師達の働きで邪気は大まかに減り、再び平和な日常を取り戻していった。

だがその数百年後、現世では邪気が再び蔓延し始めた。
年々の人口増加に伴い、人間の気も急激に生産されたからではないと考えられだがここまで多いケースは初めてだった。
抑えきれない程に悪性度の高い有害な邪気。
焦りを覚えた術師達は新たな原因療法を探って模索した。だが解決の糸口は最後まで見つからなかった。

邪気がこの世に発生し、何年か経ったある時代での話だった。ある家系に一人の男が生まれた。男は生まれつき術とは異なる、未来を見通す不思議な力の眼と神からのお告げを聞く不思議な能力を持っていた。
「曰く、この邪気の存在には人間では無い別の力が含まれている。それは人間の邪気よりも遥かに高くこの世を濃染させる存在」
男には当時、仲の良い術師の知り合いが一人いた。
そして男はこれを彼だけに言って聞かせた。
彼はこの男とたいそう馬が合い、兄弟のように深い関係だった。
そのため男の話しにも親身になって耳を傾けた。
それから何年か経ったある日のこと。
突如、男は自分の死が数年後に迫ってきていることを打ち明けた。だから死ぬ前にこれだけはお前だけに言っておきたいと彼に言って聞かせたのだ。
「いいか久野よ。現世には今後、お前達の想像を超える強い妖力を持った妖が現れるだろう。お前には隠世という別の世界がこの世にあることを話した。私が死んだら王の元へ出向き、お前達術家の中から最も霊力の高き娘をその地へ嫁がせるよう提案するのだ」
彼はこれにとても驚いた。
だから男の話に耳を傾けていたつもりだったが、死を予言する話には半信半疑だった。
だがそれから暫くして、なんと男は自身の予知していた日がくると本当に亡くなってしまったのだ。
彼は大切な友を失い、酷く悲しみに打ちひしがれていたが暫くして本当に現世には妖が現れた。彼はすぐさま亡き友の言っていた通りに王の元へ出向いた。
全て男が言っていた通りだった。
人間の邪気では無い別のもの。
それは妖側から発せられた邪気の存在だったのだ。
人間とは遥かに違く濃く有害な物質。
妖達は自らが発する邪気に当てられて理性を失い暴走し現世にやって来たのだと。そうして邪気は隠世だけでは収まりきれず、現世へ漏れ出てしまったこと。それが長年に渡って人間達を苦しめ続けていた真の原因であるということに。