王は術家の長達を集めた。
隠世に妖を追い返し、今後はもう二度と現世にも人間達にも彼らが干渉を示すことが無いように。
何か強力な縛りを結んでしまおうと考えたのだ。
だがここで次の問題が発生した。
隠世にも住まうとされる妖王に、これを納得させる契約を踏み込ませる為にはどんな考えがあるのかと。
そこで提案が上がったのは封印を家業とする長からの発言だった。
「我々は前世から今世へと渡り、誠に多くの邪気を浄化し国を繫栄と平和へ導いてきた。今後我らから産まれる子の存在は来世で大きな偉業を成して国を光ある世界へと導くだろう」
現在存在する術家の家系から産まれた、最も霊力の高き娘を隠世へ嫁入りさせてはどうか。
王はこの提案に非常に驚愕した。
曰く封印師の長は考えたのだ。
妖力欲しさに現世に妖が現れているというのなら、人間を喰わずともその妖力が保たれる事実さえ出来きてしまえば現世に干渉する必要が無くなる。
術家から産まれた人間は異能により邪気を浄化することが可能。
嫁入りさせた娘を妖の手元に置いておけば、喰わずともその妖力を保持し続けられる程に力を発揮してくれるのでは無いかと。
王は半ば半信半疑ではあった。
貴重な術家の人間を異界に送るなど。
だが他に考えが浮かばなかったため、仕方なくこの提案を呑めば術家を正式に三つの力ある勢力へと分けた。

穢れを己の体内に取り込み封印させる封印師の家業をもつ久野(くの)家。

厄を神力によって払う陰陽師の家業をもつ八雲(やぐも)家。

害を自らが持つ魔力の力で破砕する魔導師の家業を持つ南條(なんじょう)家。

こうして国により形成された三つの大きな術家の存在。
王は各術家の長達を引き連れ隠世へと出向くと、隠世の妖王にこの契約を持ちかけた。
つまり今後は、隠世に霊力の高い術家からの娘を嫁に迎い入れれば渇いた妖力は満たされ、未来永劫その一族を繁栄へと導く存在になるだろうと。
意外にも妖王は慈悲深きお方だった。
自分にも理解出来ないが隠世に住む妖達は自分も含め、生産した妖力と同時に消費される妖力の「気」から邪気を生むのだと。
邪気は強い妖ほど、その気を体内に吸い込み続けてしまうと理性を失った醜い化け物に変貌を遂げるのだという。
理性を失った化け物は、やがて本能のままに人間を喰らい尽くすと世界を血の海に染め尽くしてしまう。
だが逆を言えば、下位の存在にあたる妖達は化け物になる前に体は邪気へと耐えきれず、芯から朽ちて死んでしまう。
どちらにせよこの結果だと隠世は滅びてしまう。
人間を喰らうことで強い妖力が手に入ることは出来るが、己が発する邪気までを浄化させることが出来ない。
よって、今の隠世は邪気への増加が抑えきれない状況下にあると述べたのだった。